第35回日本神経科学大会 注目シンポジウム
「脳・脊髄損傷からの回復機構の多元的理解」《エルゼビア/NSR 協賛シンポジウム》

座長:肥後 範行 主任研究員(産業技術総合研究所)

シンポジウムの内容:
脳や脊髄が損傷を受けると、重い後遺症が残ってしまうことがあります。本シンポジウ ムでは、脳・脊髄損傷後の回復に関する私たちの成果をご紹介します。最近の研究で、 幹細胞(からだを作る基となる未分化な細胞)を投与したり、リハビリテーションで運 動訓練をしたりすることで、機能回復を促進できることが分かりました。さらにこの回 復の背景に、脳や脊髄が持つ「変わる力」があることが分かってきました。この「変わ る力」は脳や脊髄の特徴のひとつであり、これを理解し最大限に生かすことが重要です。 “脳や脊髄がどこまで変われるのか”、“どのように変わることが機能回復に重要なの か”、を知ることが出来れば、これまでよりもさらに有効な治療法の開発につながりま す。私たちはそれぞれ異なった視点でこの問題に取り組んでおり、本シンポジウムにお ける議論や情報交換がさらなる研究の発展につながることを期待しています。

シンポジスト:
(1)岡野 栄之 (慶應大医)
 iPS 細胞などリプログラミング技術を用いた中枢神経系の再生医療の開発
(2)山本 朗仁 (名古屋大院医)
 ヒト歯髄幹細胞の多面的神経再生効果をもちいた新しい脊髄損傷治療法の開発
(3)肥後 範行 (産業技術総合研究所)
 マカクサル運動野損傷後の運動訓練による巧緻動作回復とその背景にある神経基盤
(4)伊佐 正 (生理学研究所 認知行動発達)
 脊髄損傷後の機能代償過程の神経基盤と修飾因子
(5)Gregoire Courtine グレゴリー・クルティーヌ (スイス連邦工科大ローザンヌ校)
 Multi-system neuroprosthetic training: activity-driven spinal cord repair
 神経補綴トレーニングによる脊髄の機能再建

本シンポジウムの注目される講演:
(1)“ヒト歯髄幹細胞をつかった脊髄損傷の再生医療の革新的な治療戦略”
 演題:ヒト歯髄幹細胞の多面的神経再生効果をもちいた新しい脊髄損傷治療法の開発
 シンポジスト:山本 朗仁 准教授(名古屋大院医)
内容:
脊髄損傷に有効な治療法はありません。これまで幹細胞移植による脊髄損傷治療がさか んに研究されてきましたが、移植細胞の低生着率、品質管理に要する莫大な費用、移植 安全性確保の困難さなど様々な課題をかかえています。このような状況の中、脊髄損傷 の再生医療には革新的な新しい治療戦略の開発が求められています。私どもは、胎生期 の神経堤細胞に由来するとされる「ヒト歯髄幹細胞」の強力な神経再生効果を報告して きました。重要なことに、重度のラット脊髄損傷モデルに歯髄幹細胞の無血清培養上清 (CM)を投与すると、踵をあげて歩けるまでに下肢運動機能が回復することを見いだしました。骨髄の幹細胞や線維芽細胞−CM にはこのよう活性はありません。本発表では、歯髄幹細胞-CM の驚異的な脊髄損傷治療効果を基盤とした「細胞移植を伴わない、低侵襲で安全性の高い、新しい脊髄損傷の治療法開発」の可能性について説明します。

(2)“自発的にからだを動かすことは、リハビリ運動訓練により効果的”
 演題:神経補綴トレーニングによる脊髄の機能再建
 シンポジスト:Gregoire Courtine グレゴリー・クルティーヌ 教授 (スイス連邦工 科大ローザンヌ校)
内容:
脊髄損傷後のラットに、リハビリ運動訓練を、脊髄の神経回路を活性化するための電気 刺激および薬物の投与と組み合わせて行うと、相当程度歩行能力が回復することが分かりました。とくに自発的にからだを動かすようなリハビリ運動を行うと、受動的に動かされた場合よりも脳の神経回路の変化が進み、より高いレベルの回復が見られることが 分かりました。自発的にからだを動かすリハビリ運動訓練には神経回路を変える力があると考えられます。