【神経科学トピックス】
カルシウムチャネルクラスター外縁放出モデル
~シナプス前末端のカルシウムチャネルとシナプス小胞の局所配置

【神経科学トピックス】

カルシウムチャネルクラスター外縁放出モデル
~シナプス前末端のカルシウムチャネルとシナプス小胞の局所配置

パスツール研究所 神経科学部門
ポスドク研究員 中村行宏

シナプス前末端に活動電位が到達すると電位依存性カルシウムチャネルが開口し、カルシウムイオン(Ca2+)が流入します。そして、チャネルからシナプス前末端内へ拡散したCa2+が、シナプス小胞上のカルシウムセンサータンパク質に結合すると、これが引き金となって小胞が細胞膜と融合し、シナプス間隙へ神経伝達物質が放出されます。このような神経伝達物質放出の仕組みはすでに知られているものの、シナプス前末端内の小胞開口放出部位(アクティブゾーン)におけるカルシウムチャネルとシナプス小胞の局所配置、またその配置がシナプス伝達の効率やタイミングに与える影響については明らかにされていませんでした。
 本研究ではシナプスのモデル標本として脳幹の巨大シナプスcalyx of Heldを用いました。まず、細胞膜上の分子の所在を直接観察することができる凍結割断レプリカ免疫標識法を用いて、シナプス前末端におけるカルシウムチャネルの分布を電子顕微鏡で観察したところ、アクティブゾーンでは数十個の電位依存性P/Q型カルシウムチャネルがクラスター状に分布しており、チャネルの数はクラスターごとに異なっていることが分かりました。また、カルシウムチャネル周辺でのCa2+濃度拡散と神経伝達物質放出に対するCa2+キレータEGTAの作用を計算機シミュレーションで予測し、これをパッチクランプ実験で測定したEGTAによるシナプス伝達抑制作用と比較したところ、シナプス小胞はカルシウムチャネルクラスターの周囲数十ナノメートルの距離に位置すると推定されました。この配置に基づいて行った神経伝達物質放出のシミュレーションは、calyx of Heldシナプスの神経伝達物質放出の確率やそのタイミング、さらにはシナプスの成熟に伴うその特性の変化の実験データをよく説明しました。
 このような、アクティブゾーンにおいてカルシウムチャネルクラスターの外縁に小胞がドックして開口放出する「カルシウムチャネルクラスター外縁放出モデル」では、神経伝達物質の放出確率(強度)はクラスター内のカルシウムチャネルの個数によって、また、放出の時間経過(精度)は小胞のカルシウムチャネルクラスター外縁からの距離によって決定されます。この局所配置モデルは、シナプス伝達の精度と強度が独立に設定されることを示している点で、従来のモデルと一線を画しており、他の多くのシナプスへも広く適用され、その性質を説明することが可能と考えられます。

Nakamura Y, Harada H, Kamasawa N, Matsui K, Rothman JS, Shigemoto R, Silver RA, DiGregorio DA, Takahashi T.
Nanoscale distribution of presynaptic Ca2+ channels and its impact on vesicular release during development.
Neuron. 2015 Jan 7;85(1):145-58.  doi:10.1016/j.neuron.2014.11.019

<図の説明>
カルシウムチャネルクラスター外縁放出モデル
アクティブゾーン内部で電位依存性カルシウムチャネルはクラスター状に分布している。カルシウムチャネル数はクラスター間で大きなばらつきがあるが、平均20~30個と推定される。Calyx of Heldシナプスでは、シナプス小胞はクラスター外縁から20~30 nmの距離に位置しており、シナプスの成熟に伴いその距離は短縮する。シナプス前末端に活動電位が到達すると、クラスター内の一部のカルシウムチャネルが開口し、流入したCa2+がシナプス小胞の開口放出を誘発する。

<研究者の声>
カルシウムチャネルの電子顕微鏡観察は重本隆一研究室(当時生理研)との共同研究、電気生理実験は同志社大、カルシウムイメージング実験とシミュレーションは主としてパスツール研での仕事です。主要な実験データはパスツール研留学以前までにほぼすべて出揃っていたものの、シミュレーションの力を借りてそれぞれのピースを定量的な説明がつくようつなぎ合わせていくのに、さらに多くの時間を費やすこととなりました。プロジェクトを持って研究室を移籍するという展開で一時はどうなることかと思いましたがやっと何とかまとまりました。長期にわたってサポートしていただいた共同研究者のみなさまに厚く御礼申し上げます。

<略歴>
2006年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(高橋智幸研究室)。
その後、同志社大学研究開発推進機構、沖縄科学技術大学院大学研究員(高橋智幸研究室)を経て、2012-2014年 フランス・パスツール研究所ポスドク研究員(David DiGregorioユニット)。
2015年1月よりInstitute of Science and Technology Austriaポスドク研究員(重本隆一ユニット)。