第29回塚原仲晃記念賞受賞者 池谷 裕二先生
「脳回路活動の構造解析」

第29回塚原仲晃記念賞受賞者

「脳回路活動の構造解析」
東京大学大学院薬学系研究科 薬品作用学教室 教授
池谷 裕二

この度は塚原仲晃記念賞を賜り、光栄に感じると同時に、身の引き締まる思いがしております。受賞対象となった一連の研究において私たちは、神経回路の活動は決して無秩序ではなくではなく、その内部に一定のパターンがあることを証明してきました。こうした秩序は神経回路の結合構造がランダムでないことに由来しています。

 脳の機能は、神経細胞が巧妙に編まれた神経回路網によって発揮されています。したがって、脳の作動原理を理解するためには、どの神経細胞とどの神経細胞がどうシナプス結合を形成しているのか、また、その局所回路からどのような発火活動が発生するのかを大規模に知ることが必要となります。こうした背景のなか、私たちは神経細胞の発火に伴う細胞体Ca2+上昇を蛍光映像で捉える「多ニューロンCa2+画像法」という大規模記録技術に着目しました。光学系と撮影条件を工夫することで、映像取得をさらに高速化かつ大規模化することで、同時に数百から数千個もの神経細胞から発火活動をライブ記録することに成功しました(Nature Precedings 2893.1, 2009)。
 この技術を用いた発見の主要例として、以下の4つを挙げることができます。
 i)

神経回路のシナプス結合パターンを同定するマッピング法を確立し、同期発火の時空パターンが回路構造パターンと密接な関係を持つことを見出しました(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 107:10244-10249, 2010)。

 ii)

記憶に関与した海馬神経細胞をin vitroで同定することにより、興奮抑制バランスの瞬時的な崩壊が記憶再生を引き起こすことを見出しました(Nature Neuroscience, 17:503-505, 2014)。

 iii)

軸索からの直接記録に成功し(Nature Protocols, 7:1228–1234, 2012)、周辺の細胞の活動により活動電位が伝導中に変形することを見出しました(Science, 331:599-601, 2011)。

 iv)

樹状突起における多数のスパインから活動を同時記録し、神経回路網がミクロメートルの高精度で編まれていることを見出しました(Science, 335:353-356, 2012)。

 近年ビッグデータを容易に手にすることができる時代になり、データに隠れた法則や有意義な機能を掘り起こす見出すデータマイニングの能力を要求される機会が増えました。私たちはこうした問題が広く表面化するに先がけて、解決策に取り組んできました。独自のアイデアに先導された、これらの知見や解析技術が、今後ますます神経科学の分野に影響を与えることを期待しています。

【受賞者略歴】
1998年 東京大学大学院薬学系研究科にて博士号(薬学)取得
1998年 東京大学大学院薬学系研究科・助手
2002年 コロンビア大学生物科学講座・客員研究員
2006年 東京大学大学院薬学系研究科・講師
2007年 東京大学大学院薬学系研究科・准教授
2014年 東京大学大学院薬学系研究科・教授