【神経科学トピックス】
側坐核から運動野への機能的結合が脊髄損傷からの機能回復に貢献する

生理学研究所認知行動発達機構研究部門  
京都大学大学院医学研究科脳神経外科学講座
大学院生    澤田真寛    

意欲を高く持つことが神経損傷後のリハビリテーション効果を上げることはよく知られていますが、その神経メカニズムは不明でした。本研究では、意欲を司る脳の領域である側坐核が、健常時では運動機能とは関係がないものの、脊髄損傷からの回復時のみ大脳皮質運動野の活動を促進することによって直接、運動機能の回復を支えていることを証明しました。

  意欲を高く持つと脳脊髄損傷後のリハビリテーション効果が上がるということはよく知られていますが、そのメカニズムは未だ明らかではありません。我々の研究グループでは近年、部分的な頚髄損傷になったサルにおいて、一度は麻痺した手指の運動が1ヶ月程度で回復することを見いだし、その運動機能回復に対する大脳皮質の関与について検討してきました(Nishimura et al. Science 2007)。機能回復中に意欲に関与していると考えられている側坐核を含む腹側線条体の活動が損傷前に比べて増大しており、その側坐核活動は大脳皮質運動野の活動と相関するようになることを見出しました。そのことから、側坐核と運動野を結ぶ神経ネットワークが機能回復に重要である可能性を示してきました(Nishimura et al. PLOS ONE 2011)。
  しかし、先の研究では運動機能が回復したサルでは側坐核と運動野の活動の関係性が強くなるということを示すことはできましたが、その因果関係については未だ不明でした。そこで、本研究では、手の運動機能回復に対する側坐核及び運動野の活動の因果関係を明らかにするために、運動野と側坐核より電気的な脳活動を測定しながら、脊髄損傷前後のさまざまな時期において側坐核を薬理的に不活性化し、それにより引き起こされる手指の運動と運動野の電気活動の変化を観察しました。
  まず側坐核と運動野の間の情報の流れを明らかにするために、脊髄損傷前後の機能回復過程のさまざまな時期で、餌を指でつまむ運動中(図の手の巧緻性を示す)の側坐核と運動野の電気的活動を同時に記録しました。すると、脊髄損傷前にはみられなかった側坐核から運動野への情報の流れが、機能回復中には強く認められるようになり、運動機能が回復すると再び認められなくなりました。このことは、損傷からの回復時に側坐核が運動野を活性化しているということを示唆します。
  次に、実際にその因果関係を検証するため、側坐核に神経活動を抑制する薬物を注入することで側坐核の活動を一時的に不活性化し、それにより引き起こされる手指の運動と運動野の電気活動の変化を観察しました。すると、脊髄損傷から回復し始めていた手の運動は側坐核の不活性化によって回復過程の早期においてのみ障害されました。このときにサルが餌をとろうとする意欲の低下はみられませんでした。さらに、側坐核の不活性化によって運動野の活動は大きく抑制されることが明らかになりました。これらの結果から、脊髄損傷からの機能回復過程では側坐核が運動野の活動を促進することが、運動の遂行に重要な役割をはたしていることが証明されました。

Function of nucleus accumbens in motor control during recovery after spinal cord injury
Masahiro Sawada, Kenji Kato, Takeharu Kunieda, Nobuhiro Mikuni, Susumu Miyamoto, Hirotaka Onoe, Tadashi Isa, Yukio Nishimura
Science 350:98-101 (2015)

脊髄損傷前や脊髄損傷から完全回復した後では、手の運動を実行するために、側坐核の活動は必要とされていない。ところが、脊髄損傷の機能回復早期では側坐核によって活性化された運動野の活動が、手の運動機能回復を支えている。

研究者の声>
  はじめに、ご指導下さいました生理学研究所の西村先生、伊佐先生(現 京都大)、理化学研究所の尾上先生をはじめ、共著者の皆様に感謝の気持ちを申し述べさせていただきます。私は脳外科の臨床に従事していた中で、脊髄損傷の治療に役立つような研究ができないかと思っていました。 そこで、生理学研究所にお世話になり本研究に携わらせていただきました。この結果を患者様に役立てられるよう、今後も努力を続けたいと思います。

<略歴>
平成17年、滋賀医科大学医学部医学科卒業。平成17年から19年まで北野病院ジュニアレジデント。平成19年から22年まで大津市民病院脳神経外科レジデント。平成22年から23年、浜松労災病院脳神経外科医員。平成24年より京都大学医学部大学院脳神経外科学講座より特別共同利用研究員として生理学研究所で研究に従事。27年より滋賀県立成人病センター脳神経外科医員(現職)。