【神経科学トピックス】
回顧と内省をつかさどる「メタ記憶」の神経基盤の因果的な解明

東京大学大学院医学系研究科
博士研究員  宮本健太郎 

自身の記憶に対する確信度を図る実験において、その判断遂行中のマカクサルに対して、fMRIを用いた全脳の脳機能マッピングを行い、それにより同定された神経領域を薬理学的に不活化した場合の行動に対する影響を評価しました。この一連の実験により自身の記憶の正確さを自己判断する大脳メカニズムの存在を実証・解明しました。

 自分自身の記憶を内省する能力は「メタ記憶」(記憶に関するメタ認知)と呼ばれます。例えば、外国語でエッセイを書く際に、よく慣れ親しんだフレーズや表現を用いるときにはスラスラと書けますが、記憶の曖昧な単語を用いるときは、辞書を引いて確認するという経験をすることがあるかと思います。この際、自身の記憶の確かさを判断する働きは、メタ記憶によるものであり、そのおかげで、全ての単語について逐一調べることなく、効率よく作文が出来ます。
 メタ記憶は心理学において提唱された概念で、「自分が記憶していることの記憶」として、記憶そのものとは独立した認知機能であると考えられてきました。メタ記憶は、自分自身の思考(記憶)を対象に、さらに思考を行うという、抽象度の高い認知処理に基づいているので、ヒト以外の動物にはメタ記憶に基づく意思決定は困難だと考えられてきました。しかし、メタ記憶の神経基盤に関しては全く解明されておらず、実際に、記憶の神経回路と独立にそれを監視するような形で存在しているのかさえ分かっていません。なぜなら、ヒトを対象とする場合、ある認知処理に相関した脳活動は観測できますが、その脳活動と行動の間の因果関係を調べることは困難であるからです。
 そこで私たちは、言語報告を必要としない「賭けパラダイム」を用いて、ヒトと近縁のマカクサルが遂行可能なメタ記憶課題を新たに設計し(図A)、サル自身が自らの記憶に対して確信している程度を、客観的かつ行動学的に評価する方法を実現させました。そして、課題遂行中のサルの全脳の神経活動を磁気共鳴機能画像法(fMRI法)で計測しました。すると、長期記憶に関わるメタ記憶処理時に背外側前頭葉の9野が特異的に活動することが見出されました(図B)。さらに、fMRI法にて同定した背外側前頭葉9野の賦活領域に対してGABA-A受容体作動薬(ムシモール)の微量注入(マイクロインジェクション)を行い、この領域の神経活動を可逆的に抑制しました。すると、長期記憶の想起自体の成績(テスト図形が過去に見たものかどうかを判断する記憶課題の正答率)には全く影響が及ばないのと対照的に、長期記憶に関わるメタ記憶判断(確信度判断)のみに特異的な機能不全が生じる(メタ記憶に基づいた意思決定ができなくなり、先行する記憶課題の正解・不正解に関わらず、自信あり・なしをランダムに回答するようになる)ことを発見しました。
 本研究は、「大脳皮質で自分自身が行った情報処理」を自己評価する大脳神経回路の存在を初めて示しました。言語を持たないマカクサルに、それが発見されたことは、動物も自らの記憶をモニタリングし、「内省」していることを示唆し、将来的には、ヒトに特有と考えられてきた高度な思考・推論の進化論的な起源の解明に繋がることが期待されます。

Causal neural network of metamemory for retrospection in primates.
Kentaro Miyamoto, Takahiro Osada, Rieko Setsuie, Masaki Takeda, Keita Tamura, Yusuke Adachi, Yasushi Miyashita
(2017)
Science,
355(6321), 188-193

<図1点>

<図の説明>
(A)

マカクサルのメタ記憶課題。サルはまず4枚の図形リストを見て覚え、その後呈示されるテスト図形が記憶した図形リストに含まれるか否かを判断する再認記憶課題を行った。その後、再認記憶課題における自分自身の回答が正しかったと思うか、自信(確信度)の程度を判断するメタ記憶課題を行った。確信度判断において、高リスク選択肢(ピンク)を選ぶと、先行する記憶課題の回答が正解だった場合には多量の報酬(ジュース)がもらえるが、不正解だった場合には全く報酬がもらえない一方、低リスク選択肢(黄緑)を選ぶと、正解・不正解に関わらず少量の報酬がもらえるように、報酬ルールが調整されていた。するとサルは正解時の方が不正解時よりも、より多く高リスク選択肢を選ぶことから、確信度判断を、記憶に対する自信、すなわち、メタ記憶に基づいて行っていることが確かめられた。

(B)

メタ記憶課題遂行中のサルの全脳の活動を、磁気共鳴機能画像法(fMRI法)を用いて測定し、メタ記憶処理を担う前頭葉領域を同定した。さらに、同定した領域の神経活動をGABA-A 受容体作動薬にて可逆的に抑制し、メタ記憶課題・記憶課題の成績に影響が及ぶかどうか調べた。

<研究者の声> 
動物に認知課題を習得させる場合、通常、望ましい行動を報酬により強化し訓練します。今回デザインしたメタ記憶課題は、記憶とメタ記憶の両方のパフォーマンスを計測できる利点がある一方、サルから見ると、再認記憶課題に回答しそれに基づいて確信度判断を行った後に、その両方の結果を総合して初めて報酬が与えられる課題で、行動と報酬の関係の理解が難しく、サルにルールを教えるのに苦労しました。本研究は、私たちがこれまでに開発した課題遂行中のサルの脳機能イメージング技術(Miyamoto et al., Neuron, 77, 787-799, 2013)と薬理学的不活化実験を組み合わせた研究で、各手法の長所を生かし、脳活動と行動の因果的な関係の解明に踏み込めたのではないかと思います。

<略歴>
2008年、東京大学教養学部生命・認知科学科(村上郁也准教授)卒業。2010年、東京大学大学院医学系研究科(宮下保司教授)修士課程 修了、2014年、 同 博士課程 修了、同 博士研究員(日本学術振興会特別研究員[PD])を経て、2017年より、英国オックスフォード大学実験心理学部 博士研究員(日本学術振興会海外特別研究員)

<顔写真>