【神経科学トピックス】
延髄C1ニューロンを介する抗炎症作用:急性腎不全を例に

岐阜大学大学院医学系研究科
准教授 安部 力     

延髄のカテコールアミン作動性ニューロンのひとつであるC1ニューロンは,自律神経(交感神経や副交感神経(迷走神経))や視床下部-下垂体-副腎系を制御しています。私たちは,急性拘束ストレスによる延髄C1ニューロンの活性化が脾臓の交感神経を介して免疫細胞を活性化し,急性腎不全を軽減することを発見しました。

 我々の生活環境におけるストレスは,急性ストレスと慢性ストレスに大別されます。免疫系において,慢性ストレスは「悪」のイメージが強いのに対し,急性ストレスには「良」の部分があるといわれています。たとえば,日常の運動は心循環器系や呼吸器系に対して急性ストレスとなりますが,定期的に運動をすることで病気になりにくくなるということはよく知られています。急性ストレスに対する生理機能の維持には,自律神経や視床下部-下垂体-副腎系の応答が不可欠です。免疫系では,これらが産生するノルアドレナリン,アセチルコリンや糖質コルチコイドによって過度な炎症の亢進が抑えられることが知られています(図A)。今回の研究では,自律神経の交感神経を事前に活性化することで炎症を抑え,この抗炎症作用には延髄のC1ニューロンが関与していることがわかりました。
 今回の研究では,急性ストレスとして10分間の拘束ストレスを用いました。急性腎不全を引き起こす前に拘束ストレスをかけると,指標である血漿クレアチニン濃度は有意に抑えられました。拘束ストレスに曝されたマウスの脾細胞移植やノルアドレナリンを与えた脾細胞の投与でも急性腎不全の軽減効果が認められました。
延髄C1ニューロンは拘束ストレスにより活性化し,自律神経や視床下部-下垂体-副腎系の制御の一部を担っています。興味深いことに、延髄C1ニューロンを特異的に除去すると,拘束ストレスによる急性腎不全の軽減効果が消失しました。一方,延髄C1ニューロンを光遺伝学の手法を用いて特異的に刺激すると,拘束ストレスと同様に急性腎不全の軽減作用が認められました。また、延髄C1ニューロン光刺激による急性腎不全の軽減効果は,迷走神経の切断および糖質コルチコイド受容体阻害薬の投与では消失せず,β2アドレナリン受容体阻害薬では消失したことから,交感神経を介していることが示唆されました。
 自律神経を介する抗炎症作用としてCholinergic Anti-inflammatory Pathway(CAP)が知られています(図B 説明参照)。今回の研究で観察された拘束ストレスによる急性腎不全の軽減作用も,上記の結果からCAPを介していることがわかりました。今後は,この経路の分子メカニズムを明らかにすることで,疾患予防や医療費削減への貢献が期待されます。

C1 neurons mediate a stress-induced anti-inflammatory reflex in mice.
Abe C, Inoue T, Inglis MA, Viar KE, Huang L, Ye H, Rosin DL, Stornetta RL, Okusa MD, Guyenet PG. (2017) Nat Neurosci. 20(5):700-707.

<図の説明>
(A) 感染,外傷や虚血によりマクロファージが活性化し,TNF-αやIL-1βなどのサイトカインが放出される。これらサイトカインは,感覚神経の末端に結合し,そのシグナルは中枢へ運ばれる。反射的に,自律神経系(交感神経,迷走神経(副交感神経))や視床下部-下垂体-副腎系が活性化し,それらの系から放出されるノルアドレナリン,アセチルコリンやコルチコステロンが,マクロファージの過活動を抑制する。
(B) 急性拘束ストレスによる,Cholinergic Anti-inflammatory Pathway(CAP)を介した急性腎不全の軽減作用。CAPでは,コリンアセチルトランスフェラーゼ陽性脾臓メモリーT細胞のβ2アドレナリン受容体に脾交感神経からのノルアドレナリンが結合し,放出されたアセチルコリンが近接するマクロファージのα7ニコチン性受容体に結合することで,炎症性サイトカインの放出が制御される。

<研究者の声>
私の子供の頃の夢は宇宙飛行士になることでした。進路で悩んでいた時,宇宙医学の研究を行っている岐阜大学医学部生理学の森田啓之教授から,たった2行のメールをもらいました。「お前は子供の頃,アンパンマンやウルトラマンになりたいと思ったことがないのか?その夢を追い続けることが人生で最も大切なのだよ。」このメールをもらってから10年,自分のさらなる飛躍のため留学(バージニア大学)を決意し,PIのDr. Patrice G. Guyenetから私の研究観を広げてもらいました。今回の論文のアクセプトを含め,非常に充実した研究生活を送ることができているのは,私の夢を応援してくれる人がいるからだと改めて思いました。

<略歴>
安部力:2005年 九州大学歯学部卒業,2008年 岐阜大学大学院医学系研究科博士課程修了後,岐阜大学大学院医学系研究科にて特別研究員(日本学術振興会DC2),助教,講師,准教授,2014年 米国バージニア大学(日本学術振興会海外特別研究員),2016年から岐阜大学大学院医学系研究科准教授(現職)。