【神経科学トピックス】
リンパ球が脳の発達を促すメカニズムを解明

大阪大学免疫学フロンティア研究センター
特任助教   田辺 章悟

胎生期、新生児期の脳は、周囲の環境などにより厳密に制御されながら発達していきます。しかし、その制御メカニズムの詳細は解明されていませんでした。本研究は、リンパ球の1つであるB-1a細胞が自然抗体を産生することで脳の発達を促していることを明らかにしました。

 脳は、多くの因子により複雑かつ厳密に制御されながら発達していきます。この制御機構が破綻したときには、発達障害や精神疾患を発症することから、脳発達の制御機構を理解することは同疾患の治療法開発の観点から重要となります。近年、免疫系による生体防御システムが脳の発達に関与することが注目されています。しかし、どの免疫系細胞がどのように脳の発達に関わるのかについては明らかになっていませんでした。本研究では、発達期の脳に存在する免疫系細胞が脳の発達を促すメカニズムを解明しました。
 はじめに、発達期の脳における免疫系細胞の数と種類を調べました。生後1日のマウスの脳には、リンパ球であるB細胞が豊富に存在しており、成長に伴って減少していくことが確認されました。また、B細胞は髄膜や脈絡叢といった脳の表面部分に局在するほか (図A)、B-1a細胞と呼ばれる特殊なサブタイプであることを突き止めました。発達期の脳におけるB-1a細胞の機能を明らかにするために、B細胞を除去する処置を施すと、オリゴデンドロサイト (神経の情報伝達をサポートする働きをもつグリア細胞)の数が減少しました。この結果から、B-1a細胞はオリゴデンドロサイトの成熟を促す働きをもつことが示唆されました。B-1a細胞は自然抗体と呼ばれるタンパク質を産生して生体防御に関与する細胞です。また、未成熟なオリゴデンドロサイトは、自然抗体を認識する受容体であるFcα/μRを発現しています。そこで、B-1a細胞が自然抗体を通してオリゴデンドロサイトの成熟を促している可能性を検証するため、Fcα/μRの機能を阻害する処置を施したところ、未成熟なオリゴデンドロサイトの増殖が抑制され、成熟オリゴデンドロサイトの数も減少しました。オリゴデンドロサイトは髄鞘という神経を取り巻く構造物を形成することで神経の情報伝達をサポートします。この知見をもとに、発達期にFcα/μRの機能を阻害し、生後21日目の幼若期で髄鞘の形態を観察しました。その結果、髄鞘を巻いている神経の数が減少していました。以上の結果から、B-1a細胞は自然抗体を産生し、Fcα/μRを通して未成熟なオリゴデンドロサイトの増殖を促進し、髄鞘を巻いている神経の数を制御することで、脳の発達を促していることが示されました (図B)。

Shogo Tanabe, Toshihide Yamashita.
B-1a lymphocytes promote oligodendrogenesis during brain development
Nature Neuroscience. 21, 506-516 (2018).

<図の説明>
(A) 新生児マウスの脳切片におけるB細胞 (緑)と核 (青)。矢印で示したB細胞が脳表面の髄膜に存在している様子が確認できる。(B)本研究の概略図。B-1a細胞は自然抗体を多く産生することで自然免疫に寄与するB細胞である。発達期の脳では髄膜に存在し、自然抗体を産生する。未成熟オリゴデンドロサイトは自然抗体を認識するFcα/μRを通して自然抗体を受容し、増殖を促進させる。

<研究者の声>
 本研究は、私が大学院生時代から行ってきたもので4年の月日を費やして形にすることができました。行き詰まることもあって時間がかかりましたが、チャンスを与えて頂き、ご指導下さった山下俊英先生をはじめ、活発な議論をして頂いた研究室の皆さまにこの場を借りて感謝申し上げます。脳は単独で成熟していくわけではなく、免疫系や脈管系など複数の生体システムが複雑に絡み合いながら発達していきます。これは成熟してからも同様で、脳の発達機構や生理機能を理解するには脳の外に目を向けることも重要です。今後は、本研究成果を活かして脳と生体システムの連携を軸とした脳発達障害の研究に展開していければと考えています。

<略歴>
2010年 慶應義塾大学薬学部を卒業、2015年 大阪大学大学院医学系研究科 博士課程を修了。同特任助教を経て、2017年4月より大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任助教。