【神経科学トピックス】
味覚に関わる新しいイオンチャネルを発見
〜味を舌から脳へ伝えるしくみの解明〜

京都府立医科大学 大学院医学研究科 細胞生理学
講師 樽野 陽幸

私達は、舌にある味蕾から神経へ情報が伝達されてはじめて味を認識できますが、この神経伝達のしくみは未解明でした。本研究は、新しく発見したCALHM1-CALHM3チャネルが甘味、苦味、うま味の神経伝達を担うことを解明しました。

 甘味・苦味・うま味の認識を担う神経伝達物質放出チャネルCALHM1-CALHM3を同定しました。
 ヒトを含む多くの哺乳類は、舌に存在する「味蕾」と呼ばれる化学検出器を使って、甘味・苦味・うま味・酸味・塩味といった基本味を認識します。味蕾ではそれぞれの基本味は別々の細胞によって受容されますが、甘味細胞・苦味細胞・うま味細胞は固有の受容体の下流にある細胞内シグナル伝達系および神経伝達機構を共有するため、まとめてII型味蕾細胞と分類されます。食べものに含まれる甘味・苦味・うま味を呈する物質(呈味物質)は、II型味蕾細胞の頂端側膜に局在するGタンパク質共役受容体に結合することで活動電位を惹起します。その後、興奮した味蕾細胞は味覚認識を担う味神経に向けて神経伝達物質であるATPを放出します。これまで私たちは、味蕾細胞からのATP放出過程において、電位依存的に活性化されるATPチャネルを構成するCalcium homeostasis modulator 1(CALHM1)が必須であることを報告しました (Taruno et al., Nature, 2013)。しかし、CALHM1が単独でつくるイオンチャネルは脱分極による活性化が極めて遅く(τ > 500ミリ秒)、素早い活動電位(~ 3ミリ秒)によって活性化するII型味蕾細胞のもつ活性化の速い電位依存性ATPチャネル(τ ~ 10ミリ秒)にCALHM1がどのように関与しているかは不明でした。本研究では、CALHM1の相同遺伝子の一つであるCALHM3がCALHM1と相互作用し、II型味蕾細胞ATPチャネルと同じ性質をもつ電位依存性6量体チャネルCALHM1-CALHM3を形成することを発見しました。興味深いことに、CALHM3とCALHM1はII型味蕾細胞選択的に共発現しており、Calhm3ノックアウトマウスではII型味蕾細胞のATPチャネル電流、味蕾からの味刺激誘発性ATP放出、甘味・苦味・うま味の認識が消失していました。一方で、Calhm3ノックアウトマウスの酸味や塩味の認識は正常でした。
 以上の結果から、今回新しく発見したCALHM1-CALHM3複合体が甘味・苦味・うま味の認識に必須の活動電位依存性ATP放出チャネルの分子実体であると結論されました (Ma, Taruno et al., Neuron, 2018)。これまで素早い活動電位(~ 3ミリ秒)によって起こるATP放出はCa2+依存性のシナプス放出のみによると考えられていましたが、この新規電位依存性チャネルCALHM1-CALHM3は活性化がきわめて速く(τ ~ 10ミリ秒)、現在では唯一の活動電位依存性ATPチャネルです。本研究では、味を舌から脳へと伝えるしくみとともに、イオンチャネルによるプリン作動性神経伝達の分子基盤を初めて明らかにすることができました。

CALHM3 is essential for rapid ion channel-mediated purinergic neurotransmission of GPCR-mediated tastes. Ma Z#, Taruno A# (equal contribution), Ohmoto M, Jyotaki M, Lim JC, Miyazaki H, Niisato N, Marunaka Y, Lee RJ, Hoff H, Payne R, Demuro A, Parker l, Mitchell C, Henao-Mejia J, Tanis JE, Matsumoto I, Tordoff MG, Foskett JK. (2018) Neuron 98: 547-561.

<図の説明>
活動電位依存性ATPチャネルCALHM1-CALHM3複合体による味覚神経伝達
左:ヘテロ六量体であるCALHM1-CALHM3複合体は電位依存性非選択性チャネルで, 脱分極により素早く活性化する(時定数 ~ 10ミリ秒).ポアの直径は大きく(約14Å), ATP透過性を有する. また, Ca2+, Gd3+, Ruthenium Red, Carbenoxoloneが阻害物質として知られる.
右:味細胞における甘味・苦味・うま味刺激の受容・シグナル変換・神経伝達のメカニズム. CALHM1-CALHM3チャネルが活動電位に依存して神経伝達物質であるATPを放出する. GPCR, Gタンパク質共役型受容体; PLCβ2, ホスホリパーゼβ2; DAG, ジアシルグリセロール; InsP3, イノシトールトリスリン酸; Δψ, 受容体電位; ATP, アデノシン3リン酸.

<研究者の声>
この研究成果は、私がペンシルバニア大学留学中に最初の手がかりを見つけ、帰国後も共同研究を継続して成し遂げた賜物です。帰国したのが2013年なので足掛け5年の長期におよぶプロジェクトでしたが、新しいイオンチャネルの発見から、その構造・機能の解析、さらには生体内における生理機能までを明らかにするという統合的研究プロセスから学ぶことは非常に大きかったです。ペンシルバニア大学Kevin Foskett教授をはじめ、本研究に関わった全ての素晴らしい研究者の皆さまにこの場を借りて感謝申し上げます。今後は、CALHMチャネルによる神経伝達が味覚に特有なものなのか、それとも他の系でも利用されているのかを知りたいと考えています。

<略歴>
2007年      京都府立医科大学医学部卒業
2008−2010年    日本学術振興会特別研究員
2008−2010年    京都大学大学院医学研究科特別研究学生(大森治紀教授)
2010年      京都府立医科大学大学院医学研究科修了(丸中良典教授)
2010年      ペンシルバニア大学医学部生理学部門博士研究員(Kevin Foskett教授)
2013年      京都府立医科大学細胞生理学助教
2014年      京都府立医科大学 細胞生理学 講師