演題詳細
Educational Lectures
開催日 | 2014/9/12 |
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時間 | 17:10 - 18:10 |
会場 | Room D(503) |
Chairperson(s) | 久場 博司 / Hiroshi Kuba (名古屋大学大学院医学研究科細胞生理学 / Nagoya University Graduate School of Medicine) |
どこから音が聞こえるか―音源定位のメカニズム―
- EL6
- 大森 治紀 / Harunori Ohmori:1
- 1:京都大学大学院医学研究科 神経生物学分野 / Dept.of Physiol., Fac.of Med., Kyoto Univ.
聴覚によって、我々は音楽を楽しみ会話をすることもできます。会話の相手がどこにいるのかを把握する事で、コミュニケーションがより現実のものとなります。音がどこから聞こえるのかは動物にとっては大事な情報であり、場合によっては生死を左右する極めて重要な聴覚情報です。音源の位置は左右の耳で捉える音の僅かな属性の違いから我々の脳が判断します。両耳で捉える音の左右差は強さと到達時間の差として表現されますが、いずれも左右の耳の間では極めて小さな違いです。人の場合、水平面では1度の角度相当の音源位置の違いを識別できます。これは5m先で9cm相当の位置の違いです。340m毎秒の音速を考えますと、この位置の違いによって生ずる左右の耳での時間差(ITD)は10μ秒です。われわれの神経回路が1ミリ秒程度の時間経過をもつ活動電位で動作しているとき、その100倍の精度で時間差を識別できることは驚異的です。この極小時間差の識別を実現している神経回路機構を、今回はトリの脳幹レベルの神経回路を主な対象として話します。トリの聴覚神経回路は音圧系と時間系とに蝸牛神経核のレベルで分かれており、ほ乳類に比べて構成が単純であり多くの研究がなされ詳細な所見がこれまでに得られています。
音の時間情報は位相応答特性として蝸牛神経核の亜核である大細胞核で聴神経からシナプスを介して抽出されます。つぎの層状核では大細胞核で抽出された左右の時間情報を処理する事で、時間差情報が計算されます。一連の処理過程で神経回路は、様々な工夫を細胞レベル、回路レベルで行う事により時間情報の揺らぎを減少させ、安定して正確な時間差情報の抽出を行う為の神経回路機構を実現しています。また音の強さの情報も利用され、時間差抽出過程をより先鋭化しています。最終的には左右耳からの時間差情報は、音圧差情報などと総合され、下丘あるいはより上位の神経核、大脳皮質回路(Field-L)を経て、音源の位置として我々の脳で理解されることになります。残念ながらこの上位神経核での神経回路機構は未だ明らかではありませんが、こうした上位の神経回路機構を解明する目的で開発してきた新しい研究手法を含めて、音源定位に至る神経回路のメカニズムをお話しします。