演題詳細
Educational Lectures
開催日 | 2014/9/13 |
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時間 | 9:00 - 10:00 |
会場 | Room D(503) |
Chairperson(s) | 福山 秀直 / Hidenao Fukuyama (京都大学医学研究科附属脳機能総合研究センター / Graduate School of Medicine, Kyoto University) |
神経変性を見る-分子イメージングの現在と展望
- EL8
- 樋口 真人 / Makoto Higuchi:1
- 1:独立行政法人放射線医学総合研究所 分子神経イメージング研究プログラム 脳分子動態チーム / National Institute of Radiological Sciences
神経変性疾患の多くは異常凝集タンパクの蓄積を中核病理とする。また、異常凝集タンパクはプリオン様の伝播特性を有し、脳内の特定領域から他の領域へと蓄積部位が拡大することが示されている。さらに異常凝集タンパクの蓄積は神経炎症、タンパク・オルガネラ品質管理異常、神経伝達異常を連鎖反応的に誘発し、神経細胞死ひいては症状出現をもたらすと考えられる。異常凝集タンパクとしては、アミロイドβ(Aβ)、タウ、αシヌクレインなどが知られており、これらが単独ないしは複数同時に脳内に蓄積する。異常凝集タンパクの蓄積と毒性発揮メカニズムは不明な点が多いが、近年ポジトロン断層撮影(PET)により生体脳でAβおよびタウ蓄積の画像化が実現し、病態分子機序に関する多くの知見が得られ始めている。特に重要な知見として、アルツハイマー病をはじめとする認知症の中核病理を形成するAβやタウの蓄積は発症に先立って生じることや、タウ蓄積がAβ蓄積に対して独立性と従属性を有すること、認知症の発症と重症化に伴ってタウ蓄積部位が拡大することなどが挙げられる。加えて、凝集性タウのアイソフォーム構成・変異の有無と種類・コンフォメーションの多様性によって、蓄積部位の違いや、伝播性特性の違い、神経毒性発揮メカニズムの違いを生み出すと共に、PTEプローブとなる低分子薬剤との反応性の違いをもたらすことが、ヒトと疾患モデルマウスのイメージングを基軸とした解析により明らかにされてきている。Aβ凝集体に関しても変異や翻訳後切断・修飾によって多様性が生じ、伝播性や神経毒性の違いやPETプローブ反応性の違いに結びつくことが示されている。伝播性と神経毒性の発揮に伴って、ミクログリアやアストロサイトの活性化が起こるが、神経傷害性ミクログリアで発現が増加するトランスロケータータンパク(TSPO)をPETで可視化することにより、病態進行におけるグリア活性化の役割が明らかになりつつある。活性化グリアは神経細胞から放出された病的タンパクを捕捉して伝播を抑制しうるが、逆にタンパク蓄積をきたした神経細胞を攻撃する可能性もあり、どのような性質を持ったグリアが増加するかを知ることが重要と考えられる。グリアの性質は病態のステージによって動的に変化しうるので、生体脳イメージングでこうした性質を評価することを通じて、疾患発症メカニズムを解明し治療制御を実現する手がかりが得られる。同様に標的分子に応じたPETプローブを開発することで、異常凝集タンパク蓄積や炎症性グリアの活性化のみならず、オルガネラ機能不全や神経伝達異常を生体イメージングにより解析できる。これらの素過程が病態進行ないしは治療介入において互いにどのような因果関係を有するかを調べることも可能である。その際に、疾患モデル動物とヒトで共通のバイオマーカーとしてイメージングのデータを活用できることが、トランスレーショナルな病態解明研究ならびに診断治療法開発において大きな利点となる。