寒さから身を守るための感覚

掲載日:2008/04/11
オレゴン健康科学大学 神経科学研究所 中村和弘
 人間を含めた恒温動物は寒いところにいても、体温が下がってしまう前に筋肉を震えさせて熱を作ったり、皮膚の血流を減らして体の表面から熱が逃げないようにしたりして体温を一定に保ちます。寒さから身を守るためのこうした反応は、気温の低下を皮膚にある温度センサーで感知し、その情報を脳内の体温調節中枢にいち早く伝えることによって起こると考えられていました。しかし、その詳細は謎のままでした。
 私達はラットを使った実験で、皮膚から脊髄を通って伝えられる「冷たい」という信号(冷覚シグナル)が、脳幹にある「結合腕傍核」と呼ばれる領域に伝えられ、そこからさらに体温調節中枢に送られることを見つけました。そして、結合腕傍核から体温調節中枢への信号を止めてやると、皮膚を氷水で冷やしてもふるえなどの熱産生反応が起こらなくなりました。これらの結果は、気温が下がったという感覚情報が皮膚-脊髄-結合腕傍核-体温調節中枢という経路によって伝達され、この仕組みが寒さから身を守るための体温維持反応には必要であることを示しています(図参照)。
 また重要なことに、「寒い」と感じるのは大脳の一部分ですが、その部分を壊したラットでも皮膚を冷やすと体の震えなどの熱産生反応が正常に起きたので、寒さから身を守るための感覚経路は寒さを感じる神経経路とは異なったものであることが分かりました(図参照)。この研究結果は、寒冷環境において私達が「寒い」と意識の上で感じると同時に、無意識下では別の仕組みが働いて寒さから体を守っていることを示しており、この生体防御システムは私達が寒冷環境で生存するために必須の根源的な仕組みであると考えられます(Nature Neuroscience 11: 62-71, 2008)。
研究者の声
 私達の生命維持を司る脳の仕組みを探求していると、「恒常性を保つ」という至上目的に完璧なまでに適った生体システムの巧みさが垣間見え、驚嘆させられることもしばしばです。しかしそういったシステムに不具合を生じ、生命が脅かされるような病気に苦しむ患者さんがたくさんいますが、その脳内の仕組みにはまだまだ多くの謎が残されています。多くの人達がこうした研究に興味を持って、解明にチャレンジしてくれればと思います。
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