小脳プルキンエ細胞における
Homer3リン酸化を介する細胞内信号伝達の調節

掲載日:2008/08/1
水谷 顕洋
理化学研究所・脳科学総合研究センター・発生神経生物研究チーム
 我々の大脳は、100億個以上もの神経細胞の極めて複雑なネットワークから形成されている。このネットワークにおける個々の神経細胞間の接点は、シナプスと呼ばれ、神経細胞間の信号のやりとり(神経伝達)が効率良く行われるよう特別な構造をしている。即ち、神経伝達は主にグルタミン酸やGABAのような神経伝達物質を介して行われるが、シナプス前部には、神経の興奮(膜電位の脱分極)に反応してこれら神経伝達物質を放出する仕組みに、シナプス後部では、放出された神経伝達物質を感知する仕組みに、それぞれ寄与するタンパク質複合体が局在しているのだ。我々が記憶したり学習したりするとき神経細胞レベルでは、種々の神経伝達パターンに反応して神経伝達の効率そのものが変化し調節されているが、これを生み出している1つのメカニズムが、シナプス後部のタンパク質群の質的・量的変化だと考えられている。
 Homer(ホーマー)タンパク質は、シナプス後部に豊富に存在しており、シナプス後部で、細胞内の信号を伝える様々なタンパク質が複合体を形成するのを助けている。我々は、小脳のプルキンエ細胞と呼ばれる重要な神経細胞において、神経活動が起こるとHomer の一種(Homer3)がリン酸化(タンパク質にリン酸が結合することにより性質が変わる現象)され、それにより、Homer3と代謝性グルタミン酸受容体が結合しなくなることを発見した。さらに、このHomer3リン酸化が、プルキンエ細胞内でのカルシウムを介した信号伝達を調節する可能性を示した。この発見は、Homerタンパク質が、神経活動に対してリン酸化というタンパク質修飾反応を利用して、シナプス後部の分子複合体構造を極めて柔軟に調節しうる分子であることを世界で初めて示したものである(J Neurosci. 2008 May 14;28(20):5369-82.)。
図の説明:
右はHomer3の抗体を用いて、小脳皮質プルキンエ細胞内のHomer3を見えるようにしたもの、左は特別な抗体を用いてリン酸化したHomer3だけを見えるようにしたものである。Ser120の意味:タンパク質はアミノ酸がつながった構造をしているが、Homer3タンパク質は120番目のセリンというアミノ酸がリン酸化されることを示している。
(メッセージ)
現代は、すべての物事がもの凄いスピードで進んでいきます。こうした中で生きていると、自分が得心するまでじっくり考え詰めるとか、何かをやり抜くことが非常に難しくなってしまっていると、ほとほと実感します。しかし、若い皆さんには、是非とも、「ほんとう」は何かを問い続けていってもらいたいと思っています。
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