![]() |
|
|
|
神経細胞を生み出す神経「幹」細胞がなくならない仕組みを解明掲載日:2008/08/22
京都大学ウイルス研究所増殖制御学分野 下條 博美
私たちの脳を構成する多くの神経細胞(ニューロン)は神経「幹」細胞から生まれます。神経幹細胞は分裂して数を増やすことができます。またニューロンに変化する能力ももっています。ただニューロンになってしまうと分裂できないので数は増えません。胎児の脳が作られるとき、十分な数のニューロンを生み出す必要がありますが、それにはニューロンの基になる神経幹細胞の数を維持することが極めて重要です。それではどのようなメカニズムで神経幹細胞は維持されているのでしょうか?
神経幹細胞がニューロンに変化するときには“Ngn”という遺伝子のスイッチがオンになります。するとDeltaというたんぱく質が作られて細胞表面に出てきます(図A参照)。細胞表面のDeltaは、隣の神経幹細胞の表面に存在する“Notch”というたんぱく質に働きかけ、これにより休止していたNotchが働き出します。Notchが働き出すと、“Hes1”という転写因子(細胞の核内でDNAに結合してメッセンジャーRNA合成の指示を出すたんぱく質)が作られます。Hes1はNgnが働くのを抑え、これにより神経幹細胞がニューロンに変化してしまうのを抑えます。したがって、神経幹細胞からニューロンへの変化時には、Ngnのスイッチが入りDeltaを細胞表面に出して隣の神経幹細胞に働きかけることで、隣の幹細胞がニューロンになってしまうのを抑えているのです。このように胎児の脳ではニューロンへ変化する神経幹細胞と、分裂して数を増やす神経幹細胞の割合がバランス良く保たれています。このDeltaとNotchを介した細胞間相互作用をNotchシグナルと呼びます。
しかしニューロンが生まれる前のもっと幼弱な脳でも神経幹細胞は盛んに増えています。ここではどのようなメカニズムで神経幹細胞が維持されているのでしょうか?このような疑問から解析を進めたところ、実はニューロンだけではなく神経幹細胞でもNgnやDeltaが働いていることがわかりました。遺伝子発現をリアルタイムで可視化する新たな方法を用いて観察したところ、神経幹細胞ではHes1の量が増えたり減ったりしていること(オシレーション)、さらにNgnやDeltaの発現もオシレーションしていることがわかりました(図B参照)。つまり神経幹細胞はリズミックにDeltaの量を変化させて、隣接する幹細胞同士お互いにNotchシグナルを刺激しあっていました。ニューロンになるときは、Ngn の働きを抑えているHes1が存在しなくなり、NgnやDeltaが働き続けていることがわかりました。したがって神経幹細胞において、Ngnが働き続けるとニューロンへと変化し、オシレーションすると神経幹細胞に留まることが考えられました(Neuron 58, 52-64, 2008)。
![]() (研究者の声)
![]()
(略歴)
2004年日本獣医畜産大学(現、日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。2008年京都大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。2008年4月より京都大学ウイルス研究所増殖制御学分野で研究員として、ひきつづきオシレーションの仕事を続けています。学部時代、発生学実習でスケッチしたニワトリ胚が時間の経過とともに刻々と変化し成長する姿に感動し、発生という現象に魅せられて今に至ります。 |
|
Copyright©日本神経科学学会 All rights reserved.
|
|