神経細胞の架け橋;ピカチュリン

掲載日:2008/09/30
大阪バイオサイエンス研究所 発生生物学部門 加藤君子
 物を見るとはどのような仕組みになっているのでしょうか。私たちは眼球の奥にある網膜で光を感じています(図a)。網膜には、光センサーとなる神経細胞(視細胞)が存在し、ここで受け取られた光刺激は、神経細胞のネットワークを通じて脳に伝えられます。脳や網膜の神経細胞は「シナプス」と呼ばれる橋でつながっており、神経回路として働くためには個々の神経細胞が特定の神経細胞とシナプスを作ることが必要です。しかし、どのように神経細胞が自分の正しい「お相手」を探してシナプスを作るのかはよくわかっていません。
 今回私たちは、マウスを用いた実験から、特定の神経細胞同士をつなぐ際に重要な蛋白質を見つけ、「ピカチュリン」と名付けました。ピカチュリンがないマウスでは、視細胞から次の神経細胞へ情報を伝えるシナプスが上手くできないことがわかりました(図b)。このマウスでは動く模様を目で追う能力が低く、視細胞から次の神経細胞へ情報を伝える速度が正常の3倍に延びていました。このような目の症状は、筋ジストロフィー (筋肉が萎縮していく難病)の患者さんでも知られていたのですが、実際、ピカチュリンは筋ジストロフィーの原因蛋白質と共同して視細胞のシナプスを作ることが明らかになりました。ピカチュリンのないマウスや筋ジストロフィーの患者さんでは、視細胞のシナプスが上手くできていないと考えられます。
 私たちの研究は、神経細胞同士の結合のしくみを解明するだけでなく、病気治療といった点にも貢献できる可能性があります。最近、多能性幹細胞(iPS細胞)から視細胞を作り、網膜に入れて視力の回復を目指す研究が行われています。しかし、新たに作った視細胞と網膜の神経細胞を適切につなぐことができていません。ピカチュリンはこういった問題を克服する上でも役立つかもしれません。 (Nature Neuroscience 11 : 923-931, 2008)
(研究者の声)
 ピカチュリンという名前が話題性を呼び,私たちの研究が広く世間に取り上げられる事になったという事に少し驚いています。ですが、これをきっかけに多くの皆さんがサイエンスの世界に興味をもってくれたら嬉しく思います。この研究を通して,信念をもって,あきらめずに粘り強く研究を進めていく事の大切さを教えられました。まだまだ修行中の身ですが,これまでに知られていない新しい現象を発見できるように実験と向き合っていきたいと思っています。
(略歴)
 2005年 東北大学農学部生物化学系卒業,2007年 東北大学生命科学研究科修士課程修了,現在大阪バイオサイエンス研究所(京都大学生命科学研究科博士課程)にて研究を行っている。
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