2007年北米神経科学大会参加記

矢尾育子
 夜を越えて太平洋を渡った飛行機が高度を下げ始めました。窓にできた氷の結晶がゆっくりと崩れてゆきます。上空から眺めるポプラの木がきれいに黄葉していました。11月の初めでしたから、日本では北海道くらいの緯度と聞いて納得しました。着陸したその地はシアトル。航空券の予約が遅かった私は、ロサンゼルスやサンフランシスコからサンディエゴに向かう飛行機チケットが取れず、結局シアトル経由で成田からサンディエゴに向かったのでした。
 北米神経科学大会はその参加人数が多いことでも知られています。噂には聞いて知っていたものの、ホテルと航空券の予約の時にようやくその大変さが分かりました。アクセスしたらすぐに予約が取れると思っていた私でしたが、日本時間の深夜に予約サイトがオープンしてすぐにサーバーがダウンしてしまったことでその日は一旦パソコンを閉じ、諦めて帰らざるを得ませんでした。その翌日、会場近くのホテルはもう既に予約が一杯。がーん、ショック、と独り言を頭の中で呟きつつ、(これは前のボス畑裕先生の口癖だったのですが、うつるものですね。)何とか宿を押さえることができました。そんな調子でチケットも予約し、半日がかりのフライトの末ようやくサンディエゴに辿り着きました。
 サンディエゴ空港は南国を思わせるパーム椰子の木が並んでいて、中の店先には明るい色遣いのオブジェが飾られ明るく楽しい雰囲気です。空港で待つ間に、直接の知り合いではなくても見知った顔の人が通り過ぎて行きます。大会の規模が大きいからということもあるのですが、日本からの参加者が多いことにも驚きました。学会の間滞在したのは、会場から北にシャトルバスで15分ほどの距離にあるオールドタウン。古い町並みが保存され、ホテルもコテージ風で、かわいらしい建物が並んでいました。会場近くのダウンタウンではお洒落なレストランやブティックが建ち並び、陽気な店員さんが迎えてくれます。街のあちこちに咲く極楽鳥花が私たちを歓迎しているように見えました。
 学会場はサンディエゴのコンベンションセンターです。かなり大きな建物で、端から端まで歩くのに10分程はかかりました。北米神経科学大会に参加するのはまだ2回目でしたのでセッションとポスターの多さにはやはり驚かされました。ポスター会場では予想していたものの、実際にずらりと並ぶボードを目にするとその数に圧倒されました。講演にしてもどの発表にしても、目的の会場に辿り着くのにひと苦労です。会期中はきっとかなりの運動量だったに違いありません。聞きたいものが連続していて、しかもそれぞれが別のホールであった時など、やっと着いたと思ったらもう次の演題に移っていてがっかりしたこともありました。ちなみに時間通りに着いたことで安心した私は、違う演題を聞いているとしばらくの間気付かなかったりもしたのですが。
 私の発表はというと、大会の中日、スライドでの発表でした。慣れない英語に慣れない公衆の面前でのプレゼンテーション、これも何かの試練と思い、穴を掘って入りたい気持ちを抑え、緊張しつつも発表を行いました。発表演題の内容が含まれた論文が通ったこともあり、発表の中身について心配することはなかったのですが何より自分が心配でした。身内の話で恐縮ですが、私の父はよく「心配するとその通りになる。うまくいくと思っていたらうまくいくから、心配しなくていい。」というようなことを言います。実際その通りで、私の発表は心配していたとおりになってしまいました。発表を終えたという意味で「可」としたいところですが、声も小さく、聴衆へのアピールができていない、質問の受け応えにつまるなど、課題が多く残りました。スライドの説明を分かりやすくするという点では、今回の賞のスポンサーであるSciTech Editの担当者の方に発表原稿の校正を何度もやりとりしていただいたお陰で、何とかできたのではないかと思います。細かな質問まで迅速に対応していただき、本当に助かりました。
 学会の合間には親しい人や知り合いの人、またその方々から紹介していただいた方々と食事をご一緒させていただいたり、その中では共同研究者でありながらこれまでメールでしかやりとりのなかった方と初めてお会いできたりと、学会ならではのコミュニケーションができました。今回の私の場合は日本人の方と食事することがほとんどだったのですが、英語での会話も積極的にできるようになって、海外の方とのつながりも折角なのだから作れるようになりたいものだと思いました。課題が山積みです。
 ようやく英語に慣れてきたかと思った頃に学会が終わりました。ホテルに帰って疲れ果てていた私でしたが、ベッドの上に散乱した荷物をパッケージングしなくては眠ることもできません。やっと荷造りを終えたものの出発は未明。いつも朝は苦手な私もさすがに寝坊することはできません。寝ないで起きていたほうがいいかと考えながらベッドにもぐり込み、それでも数時間は眠りに就くことができました。無事起きて着いた空港では早朝にもかかわらず長蛇の列。やっぱりSfNは人が多いわ、と再確認。飛び立つ30分前にようやくチェックインを終え、その地を後にしました。お陰で帰りの飛行機ではぐっすり眠り、行きと同じくシアトルを経由して帰国し、色々あったけれど楽しかった長旅を終えました。
 この度2007年北米神経科学大会へのトラベルアワードをいただいたお陰で、このような貴重な体験をすることができました。多くの優秀な研究者の中から選んでいただましたこと、選考委員の先生方はじめスポンサーでありますSciTechEdit International社の方に心より感謝します。また、この度の受賞は、私にというよりもむしろ今回の研究成果全体に対するものだと思っています。共同研究者、支援してくださった方々、ここまで私を育ててくださった諸先生方に、この場をお借りしてお礼申し上げます。そしてこれを励みとして、今後も自分を見失わないように足元や周りをよく見ながら、前を向いて歩きたいと思います。どうもありがとうございました。
矢尾育子 略歴
1997年
神戸大学農学部生物機能科学科卒業
1997年-1999年
ERATO高井生体時系プロジェクト
2004年
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 修了
2004年〜
三菱化学生命科学研究所 副主任研究員
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