北海道大学大学院医学研究科・認知行動学分野
田中 真樹
この度は平成18年度日本神経科学学会奨励賞をいただき、選考委員をはじめ会員の皆様に御礼申しあげます。これまで取り組んできました眼球運動系に関する研究に対してこのようなご褒美をいただきましたことは、今後研究を進めていく上で大きな励みとなります。私は大学卒業後すぐに生理系専攻の大学院に進み、最初の一年間はネコ、その後は慢性サルを用いてシステム神経科学研究の手ほどきをうけました。以来、米国UCSF留学中も含め、眼球運動系を中心に随意運動の制御機構を調べてきました。
眼球運動系は末梢の動特性と脳幹レベルでの神経機構がよく理解されていること、測定が比較的容易で再現性がよく、定量解析が可能であることなどから、上位中枢による随意性のコントロールを調べる上でよいモデルを提供してくれます。今回の受賞は留学中に行いました前頭眼野に関する研究と、帰国後に進めてきました運動性視床の研究成果に対するものです。前頭眼野に関する一連の研究の中では、電気刺激によって視覚刺激に対する眼球運動応答が増大することを見いだしました。これは前頭葉皮質の出力によって感覚入力を運動に変換する際のゲインを動的に調節することができることを示しており、こうした神経機構を利用することで状況に応じた運動出力の選択(response selection)が可能になると考えられます。この発見により、従来の単純な感覚運動変換あるいは全か無の意思決定の過程に加え、on-line gain controlという新たな概念を前頭葉の機能のひとつに付け加えることができたと考えています。
留学中はボスのSteve Lisberger先生から多くのことを学ばせていただきました。実験システムや解析方法、プレゼンテーションなどの技術的なことばかりではなく、研究室の運営や研究そのものの「やり方」を言葉ではなく日々の行動から教えていただいたように思います。とくに研究を進めるにあたり、general(どう一般化できるか)、straightforward(いかに直接的に疑問に答えるか)、independent(独立であること)の3つのキーワードを常に意識することが重要だと、身をもって示して下さいました。早いもので北大に戻ってもうすぐ5年が経ちますが、これらを日々実践するのは大変なことだと実感しております。
帰国後は前頭葉への皮質下からの入力の機能的意義を調べるために、サルの行動実験と運動性視床の神経活動記録および障害実験をおこなってきました。これまでに、小脳からの出力信号が上行性に伝えられて眼球運動の計画に利用されること、視床を介する経路がsmooth pursuit eye movementの維持に関与すること、自発的に眼球運動(saccade)をおこなう際にそのタイミングが視床からの信号によって調節されていること、などを明らかにすることができました。「目は心の鏡」といいますが、今後もこのように眼球運動を指標にして、上位中枢による運動の制御と高次機能をbottom up的かつ定量的に調べていきたいと考えています。最近では脳に興味をもつ学生が少しずつ研究に参加してくれるようになってきました。今後は大学に勤めている利点を生かし、こうしたやる気のある学生達と互いに刺激をし合いながら前進していきたいと思います。最後になりましたが、これまでご指導いただき、また、今回の賞では推薦をして下さいました福島菊郎教授に厚く御礼を申し上げます。
【略歴】
1994年
北海道大学医学部医学科卒業
1998年
北海道大学大学院医学研究科修了
1998年
北海道大学助手
1998〜2001年
Howard Hughes Medical Institute (UCSF), Research Associate
2002年
北海道大学講師
【写真の説明】
研究室のメンバー。後列右から順に、國松君(院生)、平野さん(技官)、松嶋さん(学部生)、吉田君(学部生)、筆者(前列左)。