側坐核の情報処理メカニズム

McGill University Department of Psychiatry
後藤 幸織
 この度は、“目標達成行動を担う側坐核におけるドーパミン依存性の辺縁系および皮質情報の統合”という私の研究に対し、日本神経科学学会奨励賞を頂きまして、大変光栄に思っております。受賞対象となりました側坐核の研究は私が大学院生として米国に留学した時から続けてきたものです。
 腹側線条体側坐核は、辺縁系からの文脈および感情に関する情報と前頭前野で処理される認知機能が統合する場所であり、そのアウトプットは目的達成のための行動に必要不可欠であると示唆されています。しかしながら、側坐核内での辺縁系および前頭前野情報のはっきりとした統合メカニズムはいまだ明らかにされておらず、私はこのメカニズム解明に向け、システム神経科学的アプローチによる一連の研究を行いました。まず初めに、in vivo 細胞内記録を用いて海馬の同期活動が側坐核の細胞集団の膜電位を決定する事、さらに、辺縁系および前頭前野からのシナプス入力がその順序によって異なった影響を及ぼし合い、側坐核神経細胞の発火を増強または抑制することが可能であるという事を明らかにしました。これらの研究成果とともに4年間の大学院生活を終え、さらに研究を発展させるべく、その後、博士研究員としてUniversity of PittsburghのAnthony Grace研究室に赴任し、側坐核の機能に必須であるドーパミンがどのように辺縁系と前頭前野からの情報統合に関与しているのかという問題に取り組みました。in vivo 電気生理学および薬理学的手法を用いて、持続性および位相性ドーパミンの放出がドーパミンD1およびD2受容体を介して選択的に辺縁系と前頭前野入力を修飾する事を発見し、また、こうしたドーパミンの選択的入力の修飾が、空間学習と行動柔軟性という別々の目的達成行動に必要な脳機能に関わっているという事を、行動学的な手法を用いて示すことが出来ました。さらに、こられのメカニズムの異常が脳の疾患とどのように関係するのかを調べるため、動物にコカインを継続投与したところ、側坐核におけるドーパミンに依存する可塑性の異常が起き、その結果、情報統合のメカニズムが変化し行動障害を引き起こすのではないか、という仕組みを提示しました。
 こうした一連の研究が、ドーパミン異常が示唆されている統合失調症や薬物依存などの生物学的機序の解明およびその治療法の確立に少しでも貢献出来ていれば幸いに思います。
 今年の3月からは、幸運にもカナダのMcGill Universityにて研究室を運営する機会に恵まれ、今後は側坐核のさらなる研究に加え、前頭前野での情報処理メカニズムやこれらの脳の部位の発達異常がどのように統合失調症、ADHD、自閉症などの精神疾患に関わっているのかを研究していきたいと思っています。
 最後になりましたが、多大なるご指導をいただいたPatricio O’Donnell 教授 (University of Maryland at Baltimore) および Anthony Grace 教授 (University of Pittsburgh)、そして私に神経科学分野の研究に従事できるきっかけを与えて下さった上智大学 青木 清 名誉教授に、心より御礼申し上げます。
【略歴】
1998年
上智大学理工学部物理学科卒業
2003年
Ph.D.
Albany Medical College, Center for Neuropharmacology & Neuroscience
2003−2006年
Research Associate
University of Pittsburgh, Department of Neuroscience
2006−2006年
Research Assistant Professor
University of Pittsburgh, Department of Neuroscience
2006−2007年
Visiting Research Fellow
University of Paris VI−CNRS, Department of Neurobiology
2007年―現在
Assistant Professor
CIHR New Investigator
McGill University, Department of Psychiatry
【写真の説明】
右よりCharles Yang 博士 (Eli Lilly)、大谷 悟 博士 (University of Paris VI)、筆者
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