グルタミン酸受容体の細胞内輸送機構の解明を目指して
この度は、日本神経科学学会奨励賞をいただき大変光栄に感じております。今後は、この栄えある賞に恥じぬように研究を行っていきたいと考えております。
私は大阪大学大学院理学研究科において研究生活を開始いたしました。そこでは徳永史生先生の下で、視細胞の順応の分子機構についての研究を行い、様々な分子生物学的、生化学的手法を指導していただきました。その後、理化学研究所・脳科学総合研究センターの伊藤正男先生の研究室に所属し、受賞対象となりましたグルタミン酸受容体の細胞内輸送機構に関する研究を開始いたしました。伊藤先生の研究室では平井宏和先生(現群馬大学教授)と共に、AMPA型のグルタミン酸受容体のGluR2サブユニットのC末細胞内領域の880番目のセリン残基がPKCによってリン酸化されること、このリン酸化によりAMPA受容体のアンカータンパク質であるGRIPとの結合が外れること、さらにGRIPから解離したAMPA受容体は細胞内へエンドサイトーシスにより取り込まれること、そしてこのAMPA受容体のエンドサイトーシスこそが長期抑圧現象の分子実態であることを明らかにしてきました。
その後、米国のSt. Jude Children’s Research Hospitalにありました柚崎通介先生の研究室にポストドクトラルフェローとして留学させていただきました。St. Jude Children’s Research Hospitalはテネシー州・メンフィスにあり、全米からの寄付金で成り立っている研究病院です。"No child should die in the dawn of life."の精神の下に多くの臨床医や研究者が集まり、東部や西部の研究所にも劣らないトップレベルの研究が行われています。メンフィスの柚崎研ではAMPA型だけではなくδ2型のグルタミン酸受容体、そしてAMPA受容体に結合するTARP(Transmembrane AMPA Receptor Regulatory Protein)の細胞内輸送機構についての研究も開始し、これらのタンパク質の細胞内輸送を制御するいくつかのシグナル配列を同定いたしました。しかしこれらのシグナル配列に結合し実際に細胞内輸送を司るタンパク質については全く不明でした。このような状況であったとき、ある変異体を神経細胞に発現させると、野生型は樹状突起にのみ輸送されるのに対して変異体は樹状突起と軸索の両方に輸送されていることを発見しました。また、この変異体はAdaptor Protein 4 (AP-4)に結合しないこと、そしてAP-4は以前に上皮細胞で極性を持ったタンパク質輸送を制御していることが報告されていることからAP-4がグルタミン酸受容体の樹状突起への極性輸送に重要な働きをしている可能性が考えられました。これらの結果や可能性を柚崎先生と話しているときは研究の楽しさを実感できる瞬間でした。
ちょうどこの頃、柚崎先生が慶応義塾大学生理学教室に赴任されることが決まり、幸いにして私も助手として帰国できることとなりました。帰国後もAP-4によるグルタミン酸受容体の樹状突起への輸送機構についての研究を続け、予想されるようにAP-4のノックアウトマウスではAMPA受容体が樹状突起だけでなく軸索にも輸送されていること、AMPA受容体は直接AP-4に結合するのではなくTARPを介して間接的に結合していることなどを示し、論文を投稿しました。3人のReviewerから合計38個の追加実験を求められ、仕上がりの論文はMain Figure 9個、Supplemental Figure 22個という論文になりましたが、何とか掲載してもらうことができました。
今後もReviewerの厳しいコメントにめげずにAMPA受容体の細胞内輸送の研究を進め、論文にしていきたいと思っております。最後になりましたが、研究のイロハを教えていただきました徳永史生先生、中枢神経系の研究を始めるチャンスをくださいました伊藤正男先生、駆け出しの研究者であった私と共に研究してくださった平井宏和先生、そして留学時代から現在に至るまで公私にわたって(妻も娘も)お世話になっている柚崎通介先生に心より感謝を申し上げます。
【略歴】
1994年
大阪大学理学部生物学科卒業
1996年
大阪大学理学研究科生物化学専攻修士課程修了
1998年
大阪大学理学研究科生物化学専攻博士課程修了
1998年
理化学研究所脳科学総合研究センター研究員
2000年
セントジュード小児研究病院、発達神経生物学部門ポストドクトラルフェロー
2003年
慶應義塾大学医学部生理学教室助手
2007年
同助教
【写真の説明】
柚崎研の集合写真(2007年3月)
上段向かって左から6番目が柚崎通介教授、左から5番目が筆者
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