随意的運動制御のメカニズムを知りたくて
平成21年度日本神経科学学会奨励賞受賞に際し、学会員の皆様にご挨拶申し上げます。私は平成6年に新潟大学医学部を卒業後、ただちに辻省次先生(現東京大学教授)より臨床神経内科学を学びました。最初の新入院患者さんが発作性運動誘発性舞踏アテトーゼという疾患であったことと、医局の先輩の佐藤正久先生(現済生会新潟第二病院部長)がヒトの運動制御に関する神経生理学的知見をいろいろお話くださったことが大きく影響し、随意運動の制御機構に深く興味を抱くようになりました。数年間悩んだ末、臨床医をやめて基礎研究者となることを決意し、当時東北大学におられました丹治順先生(現玉川大学脳科学研究所長)の教室に大学院生として入門させていただきました。以後眼球運動系をモデルとして大脳皮質および大脳基底核による随意的運動制御のメカニズムを研究してまいりました。
眼球運動系は末梢の動特性と脳幹レベルでの神経機構がよく理解されていること、また測定が比較的容易で再現性がよいことなどから上位中枢による随意的コントロールを調べる上で非常によいモデルとなります。この長所に着目し、東北大では急速眼球運動系を使って運動の順序制御における前頭葉皮質運動野の役割を研究いたしました。目的を達成するために行う意図的な行動は、1つの動作で完結することは稀で、通常は複数の動作を正しく順序だてて行うことが必要となります。東北大で行った一連の研究により、補足眼野、前補足運動野、そして前頭眼野ニューロンの順序制御における活動特性を明らかにし、各領野がある程度固有の使われ方をしていることを見出すことができました。この研究を通じ、1つのプロジェクトを完遂するには長年にわたる地道な努力と忍耐が必要不可欠であることを学びました。
平成16年春より米国NIHの彦坂興秀先生の研究室に留学させていただきました。NIHにおいても眼球運動系をモデルとして用い、より自働的な動作からより意図的制御を必要とする動作への切り替えを実現する神経機構を研究いたしました。私達は日常動作の多くをほとんど意識することなく半ば自働的に遂行することができます。一方、新たな状況や予想外の局面に遭遇した際には、そのような自働的動作を控え、適切な動作を注意深く意図的制御下にコントロールすることが要求されます。細胞活動記録実験と電気刺激実験を組み合わせ、前補足運動野がこの種の動作切り替えに極めて重要な役割を担っていること、それが大脳基底核を介して実現されている可能性が高いことを見出しました。この経験を通じて、自由な発想のもとで研究を遂行することの楽しさを学びました。今回受賞の対象となりました「意図的な眼球運動制御における前頭葉内側部の役割」は、東北大学とNIHで行った研究結果をまとめたものとなります。これらの研究を遂行するなかで、恩師の先生方以外にも尊敬すべき多くの先輩や同僚に恵まれ、良質の刺激を継続的に受けることができました。大変貴重な財産となっております。
平成19年夏に帰国し、理化学研究所で入來篤史先生が率いるチームに参加させていただきました。また平成20年からは、さきがけ研究員(兼任)として新たな視点から合目的的行動の神経基盤についての研究を続けております。今後も地道に、かつ自由に楽しく研究してまいりたいと思います。この度は大変有り難うございました。

筆者近影。彦坂興秀先生が撮ってくださったもの。
【略歴】
1994年
新潟大学医学部医学科卒業
1994年
新潟大学脳研究所神経内科学教室入局
2003年
東北大学大学院医学系研究科博士課程修了
2003年
科学技術振興機構ポスドク研究員
2004年
National Institutes of Health留学
2007年
理化学研究所脳科学総合研究センター研究員
2008年
同副チームリーダー
2008年
科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任)
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