Let's Go CAPS!

理化学研究所脳科学総合研究センター分子神経形成研究チーム
定方 哲史
 このたびは日本神経科学学会奨励賞を授与頂きまして身に余る光栄であるとともに大変身の引き締まる思いです。選考委員会の先生方をはじめ、日本神経科学学会の関係各位に厚く御礼申し上げます。
 私はドクターコース一年時にCAPS2を新規遺伝子としてクローニングし、以来CAPSファミリータンパク質の働きについて調べてまいりました。私の研究室では古市貞一チームリーダーの采配のもと、新規遺伝子を大量にクローニングし、小脳の発達に関わる遺伝子のデータベースを構築してまいりました。今ではそのプロジェクトは国際的に誇れるデータベースとして結実しました(www.cdtdb.brain.riken.jp)。当初学生であった私はその頃、小脳のコンパートメントで発現量に差がある遺伝子を見つけようと意気込み、片隅で独自のディファレンシャル・ディスプレイを行い、CAPS2 遺伝子他、多数の新規遺伝子をクローニングしました。
 私は当時、「小脳の左右どちらかでのみ発現する遺伝子」や「小脳虫部や片葉のみで発現する遺伝子」を狙っていました。しかし残念なことに、私がクローニングした遺伝子群は、小脳のコンパートメント間にあるdevelopmental stageの微妙な差を反映したものに過ぎないことが分かりました。そこで転んでもただでは起きまいと、取れてきた遺伝子群の精査を続けた結果、CAPS2というクローンに関して以下のことが分かってきました。
  • CAPS1は有芯小胞の分泌に関与している重要な分子であることが分かっているが詳細は不明。
  • CAPS2は新規遺伝子であり、脳では可塑性と関係ある場所で非常に発現が高い。
  • 大抵の分泌関連遺伝子はファミリーのメンバーが多いが、CAPSファミリーはCAPS1とCAPS2だけらしい。
 そこで一気にCAPS2に舵を切り、様々な解析を平行して開始しました。
 新規遺伝子群のクローニングと聞くと華々しいものが想像されますが、私がディファレンシャルディスプレイを行っていた10年ほど前でも、もはや新規クローンは世界中で先行して行われてきたクローニングの笊からもれ続けてきた孤児のようなものであり、殆どが塵芥ばかりでした。その中から有望なものを見つけ出すのは至難の業であり、現に私の研究室でも屍の山が築かれました。そんな中、原石を見つけることができたのは、幸運だったとしか言いようがありません。
 クローニング後、様々な解析を続けた結果、どうやらCAPS2はBDNFを内包する有芯小胞に外側から会合し、BDNFの分泌に関与しているということが分かってきました。そこでボスのゴーサインが出たため、KOマウスの作製を行いました。このKOマウスの解析を続けるうち、「このマウスがもし人間だったら精神疾患なのではないか?」と思えるデータが次々と出てきました。そこで精神疾患を扱った書籍に色々とあたった結果、「このマウスは自閉症様の形質を示している」ということに気付きました。そこでさらに自閉症様の様々な形質を解析した結果、ダメを押すようなデータが得られ、確信するに至りました。
 次に実際の自閉症患者さんのサンプルを解析することを計画しました。上手い具合に、CAPS2は特定の血球で発現していました。これは血液サンプルで幾つかの発現解析が行えることを意味します。そこで、日本で最も多くの自閉症患者が通院している梅ヶ丘病院の医師の方々に依頼し、血液サンプルを集め始めました。当時ボスはその方向で研究を進めることに(やや)反対しており、私も臨床サンプルの取り扱いの経験はなく、全てが手探り状態でした。しかし、運良く(自閉症患者特異的な)CAPS2のexon 3スキップという異常が見つかり、CAPS2 と自閉症の関係をとらえることができました。
 さらに最近ではCAPSファミリータンパク質が有芯小胞の分泌のどのステップにどのように関与しているのか?という本丸に挑みつつあります。私が最近得た数々のデータは、有芯小胞がゴルジ体より生まれる過程でCAPSが働いているというもので、それを裏打ちするような結合タンパク質群も取れてきており、新たな局面を迎えつつあります。未知なる有芯小胞トラフィッキングの解明に挑めたら、研究者冥利に尽きると考えております。
 今回の受賞は、これまでご指導頂いた先生方ならびに一緒に研究を行った数多くの仲間達のお力添えによるものです。特に、古市貞一チームリーダーには研究のイロハからご教示頂き、時には(物理的な)愛の鞭をもいただきました。この場をお借りして心より感謝申し上げます。また、日本神経科学学会の皆様には今後ともご指導ご鞭撻の程宜しくお願い申し上げ、感謝の言葉とさせていただきます。

古市研の集合写真(2009年4月)。一番前がボス。一番後ろが筆者。

Washington D.C.に掲げられた「Let's Go CAPS!」の旗。
【略歴】
1998年
東北大学理学部卒業
2000年
大阪大学大学院医学系研究科医科学修士課程修了
2004年
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2004年
理化学研究所研究員
2007年
理化学研究所基礎科学特別研究員
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