自然科学研究機構・生理学研究所・生体膜部門
松崎 政紀
この度は、日本神経科学学会奨励賞を頂きまして、誠にありがとうございました。
中枢神経系における興奮性シナプス後部である樹状突起スパイン(棘突起)は、ラモニ・カハールによって19世紀末に発見されて以来、長い間、多くの研究者を魅了し続けてきました。それはスパインが、記憶の貯蔵部位の第一候補として認識されていただけでなく、それ自体の美しいフォルムによるところも大きいと思われます。私がその存在を初めて知ったのは、大学院博士課程1年の時の、Svoboda&Denkによるスパインネック測定の論文が研究室セミナーで紹介された時でした。そこではまだ珍しかった2光子励起レーザー顕微鏡を用いていて、生きた神経細胞のスパインを計測していました。もちろんその時は、2光子励起顕微鏡など全く理解していませんでした。学習したり、創造的な発想が生まれるときには、スパインが伸びたり、新しくできたりするのかもしれない、いつかはこのスパインの研究をしてみたいと妄想していただけでした。ところが全く幸運なことに、博士課程からお世話になっている河西春郎教授の先見の明のお陰で、2光子励起顕微鏡を博士2年からいじることができるようになりました。初めは何もわからない状態でレーザーを調教し、調教されていましたが、時間が経ち慣れてくるにつれて、その方法論としての強力さに感嘆し、さらに未知数の可能性を思い巡らすと、その魅力に抗いがたく離れがたく、今に至っています。実験を始めた頃は、スパインも解像せず、シナプスの受け取り側はシナプス後部、という認識しかありませんでしたが、スライス標本を扱えるようになって、何千ものスパインを観察できるようになってくると、自分がスパインに吸い込まれ、変化し続けるスパインの上を闊歩しているように思えるときもあります。ケイジドグルタミン酸を使って、スパインにおけるグルタミン酸感受性を測定でき、さらに単一スパインにおける長期増強とスパイン頭部増大を自分の手で誘発できたのは、本当に幸運だったとしか言いようがありません。もちろん、スパイン構造・機能の全貌の解明にはこれからもたくさんの実験が必要です。そして今こそが、2光子励起法の開発や、多くのシナプス分子の発見がなされてきたことによって、スパイン研究が邁進する時のように思えます。無数のスパインがどのような様式で神経回路の中に組み込まれ、作動しているのか、実際どのように記憶が書き込まれていくのかを、2光子励起法をさらに発展させていくことで、少しでも明らかにしていければと考えています。
共同研究者であります、根本知己助手、本蔵直樹氏、野口潤博士、Ellis-Davies Graham博士、飯野正光教授、宮下保司教授に感謝申し上げます。大学院時代からご指導頂き、生理学の本随を叩き込んでくれました(身に付いているかは別として)、河西春郎教授に心より感謝申し上げます。
【略歴】
1994年 東京大学理学部生物化学科卒業
2001年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2002年 生理学研究所生体膜研究部門助手