「シナプス小胞を知ることから始めよう」
高森 茂雄
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科21世紀COE特任講師
東京医科歯科大学COE・高森グループのメンバー(神田神社境内にて-2005年8月)
左よりYasu、Mitsuko、Stephan、Shigeo(筆者)
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この度は、日本神経科学会学会奨励賞という名誉ある賞を頂き、非常に光栄に感じると同時に、身の引き締まる思いです。
受賞対象となったのは、私が7年間在籍したドイツ・マックスプランク生物物理化学研究所(ゲッティンゲン)・神経科学部門のReinhard Jahn教授の元で行った小胞型グルタミン酸トランスポーターの同定とその性状解析についての研究成果です。以前にも、神経科学ニュース誌上に留学体験記という形で拙文をしたためる機会を頂きましたが、私が神経科学分野の研究を開始したのは、博士取得後、マックスプランク研究所にポスドク研究員として赴任した時でした。右も左もわからぬ渡独第一週に、ReinhardとLab managerのFriederとの3人で、全長2メートルの「CPGカラム」を作製したことは、Jahn研での初めての仕事として今でも印象深く記憶に残っています。それから、私は、Jahn研に長らく伝わる「CPGカラム」の番人役を仰せつかることとなりました。歴史を辿れば、1970年代に、イギリス人神経科学者のVictor Whittaker博士が、CPGカラム(size-exclusionカラム)を用いたシナプス小胞精製法を開発されたのも、同じマックスプランク研究所においてでした。CPGカラムを用いた私の人生初めてのシナプス小胞精製はといえば、フラクションコレクターが正常に作動しなかったために、翌朝コールドルームでは、ラット20匹分のサンプルが床中を濡らしており、私の心は涙で濡れました。(Reinhardには内緒です)。数回繰り返す内に、ようやくきれいなシナプス小胞のピークが得られるようになりました。研究室に入ったばかりで手持ちぶさただった私は、とりあえずシナプス小胞ととことん付き合ってみることにしました。Jahn研のシナプス小胞膜蛋白質に対する抗体のコレクションは、目を見張るものがあります。そこで私はこれといった目的もなく、冷蔵庫にある抗体を片っ端から用いて、Western Blottingを連日連夜ひたすら繰り返しました。また同時に、シナプス小胞が持つ神経伝達物質の取込活性を測る練習にも取り組みました。形質膜の取込活性も測って比較してみると、シナプス小胞の取込活性が如何に低いかが顕著にわかります。ハッキリ申しまして、「これは難儀だぞ」と感じたのも事実です。1997年当時、シナプス小胞の神経伝達物質トランスポーターとして、唯一、主要な神経伝達物質であるグルタミン酸のトランスポーターだけが、未同定の分子として残っていましたが、「CPGカラム」の番人になってから、黙々とシナプス小胞と戯れること2年、ようやく現在VGLUT1と呼ばれている分子の姿が徐々に明らかになっていきました。ポスドク生活を始めた当時は、取り立てた意味もないと思っていた、シナプス小胞の精製法・シナプス小胞膜の分子プローブ・神経伝達物質の取込活性測定法、これらの繰り返しは、いつしか習熟につながり、その2年余りの経験の蓄積が、VGLUT同定に直結したのではないか、と今感じています。最終的に、我々哺乳類の神経系には3つのVGLUTイソ型が発現していることがわかりました。VGLUT分子同定の神経科学分野への最大の貢献は、これまではなかったグルタミン酸作動性ニューロンの分子マーカーを提供できたことだと思います。「VGLUTあるところにグルタミン酸放出あり」という訳です。この数年で、世界中の神経解剖学者達のすばらしい業績が集積され、哺乳類脳内のグルタミン酸神経回路の大まかなマッピングが達成されました。VGLUT発見者として、神経科学の進歩に少しでもお役に立てていれば幸いに思います。
今後は、VGLUTイソ型の機能の違い、VGLUTの発現量とシナプス伝達強度、ひいては脳高次機能への寄与など、多くの知見が得られていくことでしょう。
この受賞に際し、引き続き私もこのフィールドに参加させて頂き、微力ながら尽力していきたいと、決意を新たにしております。
これからも、御指導御鞭撻の程よろしくお願い致します。
【略歴】
1993年:東京大学農学部獣医学科卒業
1997年:東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了
1997年―2004年:ドイツ・マックスプランク生物物理化学研究所・研究員
2004年―:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・脳神経病態学分野・21世紀COE特任講師
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