道 標(どうひょう、みちしるべ):第1回 永津 俊治先生

第1回 道標~迷った時の道しるべ~ は、永津俊治先生です。

「道標」~迷った時の道しるべ~

永津 俊治 先生    

永津先生、今までの研究生活において色々とお聞きしたいことがあります。
よろしいでしょうか?

Q:まず、研究を始めたきっかけは、何でしたか?

A:化学が好きで、医学部学生(当時は2年間の教養部終了後に医学部を受験して4年間)と1年間のインターン(終了後に医師国家試験)の時代とに、授業・実習、臨床の後に夜に生化学教室で研究の手伝いをしていました。また精神病院で手伝いをして経済的にお世話になっており、精神疾患の患者さんに接する機会が多く、脳神経生化学に興味をもちました。それで大学院時代は内科系精神医学専攻でしたが研究は生化学教室でした。1950年代後半に、Prof. Arvid Carlsson (Sweden) がdopamineを新しい神経伝達物質として發見し、また後年にdopamine receptor antagonist とわかったchrolpromazine が最初の統合失調症の薬剤となったことより神経精神疾患の神経生化学研究に興味をもち、大学院修了後に基礎医学の生化学教室に移りました。最初の共著者として出した論文は「D-アミノ酸酸化酵素の脳内存在とクロールプロマジンによる阻害」の論文(Nature 1956)でした。

Q:研究をしていた頃に大きな壁というものは有りましたか? また、大きな壁と感じたものは、何でしたか? それをどのようにして乗り越えられましたか?

Dr Sidney Udenfriend (NIH, Laboratory Chief; Roche Institute of Molecular Biology, Director)、米国 科学アカデミー会員;筆者は 科学アカデミー会員;筆者は Dr. Sidney Udenfriend 研究室で、1962-1964 NIH, 1972-1973 Roche Institute of Molecular Biology で2度にわたり研究した。

A:Dopamine合成酵素の中で、チロシンからDOPAを合成する第一段階の酵素のみ不明でしたので、その探索を志して1962年にNIH Postdoctoral Research Fellow としてNIH のDr. Sidney Udenfriend の研究室に行きました。1964年までに新酵素tyrosine 3-monooxygenase (tyrosine hydroxylase, TH)を発見する好運に恵まれました。この研究では、日本でのcatecholamineの蛍光測定の経験をラジオアイソトープ測定に応用したL-(14C)tyrosineL-(14C)DOPA の反応のfemto-mol orderでの液体シンチレーションカウンターによる高感度測定法の開発が発見の最初の大きい要因でした。また困難なことは脳粗酵素材料では活性が極めて低く、補酵素(tetrahydrobiopterin)が不明なことでした。昼夜兼行のhard workであらゆる可能性のある補酵素を検索して、tetrahydrofolateが活性化することを見つけました。若い時期ですからhard workも可能でした。後になり、酵素反応系でtetrahydrofolate の側鎖が切れて生成するtetrahydropterin (2-amino-4-hydroxy-tetrahydropteridine) が補酵素作用を持つことが分かりました。NIHのDr. Udenfriend の同じLabのDr. Gordon Guroff が6,7-dimethyl-tetrahydropterin を入手してくれて研究は進展しました。1963年にNIHのDr. Kaufmanがphenylalanine hydroxylase の補酵素は還元型biopterinであることを発見して、天然pteridine 補酵素はtetrahydrobiopterinと決定されました。

Q:先生にとって「これがターニングポイント」だったと思われる出来事は何ですか?

A:NIH Postdoctoral Research Fellow の試験をうけてNIHのDr. Sidney Udenfriendの研究室で研究したことです(1962-1964)。愛知学院大学歯学部生化学(1965-1976)時代にUniversity of Southern California (1967-1968), Roche Institute of Molecular Biology (1972-1973; Director, Dr. Sidney Udenfriend) の2度にわたり、海外長期研究を許可していただいた愛知学院大学に深く感謝しています。東京工業大学大学院生命化学(1976-1985)、名古屋大学医学部生化学(1984-1991)、藤田保健衛生大学総合医科学研究所(1991-2001)と3回移動のときも、それぞれ苦労がありましたが、各移動にあたり、多くの関係指導者の方々の温かいご援助とご理解とにより、移動前と移動後の両大学に最善の義務を果たせたことを深く感謝しています。

Dr Marshall Nirenberg: Genetic code (1960); NOBEL NOBEL NOBEL賞 (1968). 1962年以来の友人。 郁子 夫人と共に 。

 また大学院時代に妻の石橋郁子(前・藤田保健衛生大学 医学部解剖学(組織学)教授、現・名誉教授・客員教授)と結婚しましたが、家庭と研究教育の仕事の両面において、妻の援助ははかりしれないものでした。研究でゆきづまった時に、妻は常に明るく励ましてくれました。米国NIH, University of Southern California, Roche Institute of Molecular Biology では、常に同じ研究所・大学の異なる研究部門で妻にもpositionがえられる好運にめぐまれました。米国の温かい抱擁力に深く感謝しています。

Q:先生がやって来られた分野で、未だやり残されていることは何ですか?

A:アミン系神経伝達物質、ことにcatecholamine系(dopamine, noradrenaline, adrenaline)の生物化学・分子生物学・神経科学を主なlife workとして、精神・神経疾患のメカニズムを明らかにして、その予防・治療に貢献することを目標としましたが、未だやり残されていることは多くあります。

Dr US von Euler Noradrenaline neurotransmitter (1946);NOBEL賞(1970)
Dr Julius Axedlrod: catecholamine などの 低分子神経伝達物質シナプスよりの reuptakereuptake (1962) ;NOBEL賞(1970)

 基礎研究では、tyrosine 3-monooxygenase (tyrosine hydroxylase, TH)をはじめとするすべてのヒトのcatecholamine 生合成酵素、またTHの補酵素tetrahydrobiopterinのGTPよりの生合成酵素GTP cyclohydrolase Iを精製して抗体を作成し、すべてのヒトcatecholamineと tetrahydrobiopterin合成酵素の遺伝子のクローニングに成功して構造を明らかにしました。
 catecholamine のヒトでの生理的役割、ことに大脳基底核dopamine neuronのヒトの報酬系・情動・行動・性格との関連については多くの解明すべき課題が残っています。
 基礎研究と並行して、病態神経科学の研究として、精神・神経疾患の分子機構の研究では、臨床症状(表現型)の比較的明確な運動障害の神経変性疾患Parkinson disease (PD)について、死後脳の神経化学より始まり、神経内科の楢林博太郎教授(順天堂大学)、吉田充男教授(自治医科大学)、金澤一郎教授(東京大学)、水野美邦教授(順天堂大学)、Prof. Peter Riederer (Wuerzburg University, Department of Neurochemistry, Germany)らと共同研究をしました。高齢者に多発する脳老化と関連の深いParkinson disease (PD) は、記憶などの認知機能障害を主症状とする認知症、Alzheimer disease (AD)、とメカニズムや予防・治療の開発に多くの共通する点があります。
 最も困難な21世紀の課題とされるヒト脳の病気、ことに精神疾患の分子機構を現代科学で解明することは不可能とする意見もあります。しかし精神疾患も神経疾患も脳の病気として連続していると思います。精神・神経疾患のメカニズムを解明する最初の目標としてParkinson disease は比較的に取りつきやすいと考えました。
 Parkinson disease が1817年James Parkinsonにより記載されて以来200年が経過しました。約5-10% の家族性Parkinson disease (PARK) の遺伝子座/原因遺伝子は PARK1 (alpha-synuclein, 1997), PARK2 (parkin, 1998; 水野美邦、清水信義、田中啓二の3グループの共同研究)発見に始まり2016年でPARK22に達しています。高齢者に多発する大部分の家族歴のない弧発性Parkinson diseaseは多くの感受性遺伝子と環境因子によると推定されています。その病因解明研究は国際的に日夜進展しており、多くの感受性遺伝子が同定され、環境因子として農薬rotenoneなどが見つかりました。しかし、未だ根本の病因と治療法は解決していません。
 1960-1970年代に、脳黒質線条体系dopamine neuron の変性による神経伝達物質dopamine減少とL-DOPA投与による運動障害の画期的な神経伝達物質補充療法が発見されましたが、運動障害発症の初期には著効があるが病気の進行は防ぐことが出来ず対症療法でした。私共はL-DOPAが有効な、1970年代に瀬川昌也博士の發見された遺伝性dystonia (DYS5) 瀬川病の原因遺伝子はtyrosine hydroxylase cofactorのtetrahydrobiopterinの生合成酵素GTP cyclohydrolase I (GTP cyclohydrolase deficiency)であることを発見しましたが(1994)、Parkinson diseaseはさらに複雑な分子機構によります。

Dr Arvid Carlsson: dopamine neurotransmitter (1958); NOBEL賞(2000)

 Parkinson disease のmarkerである細胞内封入体Lewy bodyの主要分子alpha-synuclein (PARK1の原因遺伝子)が病因に深くかかわる仮説が有力で、国際的に分子機構の解明が進んでいます。Lewy body は運動障害発症の数十年前より始まると予測されますので、運動障害の発症前に診断できるbiomarkerが見つかり、予防と進行防止・治療薬の創薬が期待されます。 最も期待される研究は、山中伸也教授(京都大学)が発見開発されたiPS細胞より分化した患者自身のdopamine neuronで病因を解明し、根本治療薬を開発し、また脳に移植する再生治療です。
 村松慎一教授(自治医科大学)は、私共の単離したヒトdopamine 合成遺伝子(tyrosine hydroxylase(TH),GTP cyclohydrolase1 (GCH), aromatic L-amino acid decarboxylase (AADC) 遺伝子)を用いて、dopamine合成酵素遺伝子をadeno-associated virus (AAV) vectorによる世界最初の遺伝子治療をすすめて有効性を報告されています。遺伝子治療も期待される再生治療法です。 私は最初に統合失調症、うつ病、などの精神疾患の化学による病因解明、治療薬の創薬を目標として神経化学に進みましたが、そこまでに至りませんでした。神経変性疾患のParkinson disease の原因解明、治療にはある程度の貢献ができたと思います。しかし、Parkinson diseaseにも未だ多くの未知の課題が残っています。精神疾患と神経疾患とは同じ脳の病気として連続していますが、精神疾患は、さらに多くの感受性遺伝子と環境因子(生活習慣など)が複雑に絡んでおり、神経疾患より解明がさらに困難です。しかし精神疾患も後進の研究者の努力による神経科学の進歩で、予防・治療が必ず実現することを期待しています。
 WHOによる健康(health)の定義では、身体の健康 (physical health), 心の健康(mental health), 社会的健康 (social health) ですが、さらに精神疾患の解明のために魂の健康 (spiritual health) を加える案が2000年ごろより一部の精神医学者より提唱されています。「心は脳の機能であり、魂は脳を超えた存在」との二元論もあり、Einsteinはじめ二元論に同意する著明な科学者もあります。心と魂は同じであり、「魂」も脳の活動であるとする一元論で考える理由は、脳をはなれた「心・魂」の存在は現在の科学では証明できないからですが、証明されないから存在を否定することは困難です。脳と心・魂の課題は人類の最大の疑問ですが、脳を離れた魂の存在を肯定するのは、宗教の信仰と類似しており、科学とは次元の異なる問題かもしれません。

Q:人を育てている時に「これが一番大切だ」と思う事は何ですか?

A:研究は永遠に継続する課題ですから、後継者の育成は最も重要です。これまでの経験から後進の人に常に次のような助言をしています。まず自分の個性を大切にすることです。個性・性格・能力も神経科学の問題ですが、どんな人にも個性に応じた長所・能力があります。人は短所を認識してその矯正に一生努力することも必要ですが、長所を伸ばす方が容易でより効果的です。長所と短所は表裏であるからです。そのためには「自分の個性を長所として認めて発展させること」が一番大切と思います。次に自分の長所としての個性の上に立って、一度しかない貴重な人生において「自分は何をするか、研究・仕事の主題を決める」ことが最も重要と思います。
 これまで4大学で多数の大学院生や若い研究者を指導しましたが、学生の個性・能力に応じて、研究の努力や成果を褒めて、その人の長所を伸ばすことに努力しました。ただし指導者は、後進の欠点や短所に気づいた時には、愛情を持って、しかし卒直に厳しく欠点を指摘することが極めて重要です。
 就職先の世話も、会社などのindustryに行くか、大学などのacademiaに行くかは本人の希望を一番尊重しますが、能力、人格についての虚偽の推薦は絶対にできません。

Q:最後に、これから研究を進めて行く人達へのメッセージをお願い致します。

A:これまでの50年の研究を顧みて、反省される点がいくつもあります。 研究を始める時期に「優れた指導者」に出会うことが重要です。大きい業績のある指導者の研究室より優れた研究者が出ています。「優れた指導者」は専門領域とはかぎらず、人生において、少年期の先生や、研究の途上で出会った指導者や研究者などより研究の進め方のみならず、「いかに生きるか」について重大な教訓を与えられることがあります。私は中学時代に戦後の甚だしい経済的疲弊の時期で経済的事情から一時大学進学をあきらめた時がありましたが、中学で英語を教えていただいた尾崎良康先生(現・愛知教育大学名誉教授)より、「自分の希望を大切にして進学するように」との助言をいただき、医学部に入り、日本と米国のいくつかの大学と研究所で、神経科学の研究と教育に働く機会を得ました。その間、現在までに、日本のみならず国際的に多くの優れた恩師と尊敬する親友にめぐまれたことを深く感謝しています。
 研究は専門とする領域での自分が興味を持つ重要と思われる「課題選択」より始まります。過去の業績の文献を精査して「独創性(originality)と予測される科学的社会的重要性(impact)」が高いかをよく調査・考慮してから、「仮説による研究計画を立てる」ことが重要ですが、自己の考えを大切にして研究をすすめて下さい。“impact”の予測は極めて困難で、その時には重要な成果でないと思われることが数十年して極めて大きい成果になることがあります。一般的にみて、答えが予測されるような研究は大きい研究でありません。答えのわからない疑問とされる課題を選ぶべきです。
 発見をするためには「最新のmethod」を応用することが必須です。神経科学領域でも毎日次々に驚くべき発見が報告されていますが、1970年代までの神経化学の方法から、1953年のDNAの構造の解明に基づき1980年代より急激に発展した分子生物学・遺伝学・細胞学の方法の導入と、1990年代よりcomputer science, information science の応用とによりこの神経科学の目覚ましい進歩がありました。
 理想としては、誰も研究をしていない、過去の文献にない研究課題を選択することが望まれますが、重要な研究課題にはしばしば世界で同時期に同じ研究をめざす競争者がいて、激しい国際競争になることがあります。科学研究は競争が目的ではなく、人類の発展・幸福の為の研究で、研究課題によっては国内・国外での共同研究も必要ですが、最初に(for the first time)発見することが望まれます。そのためにはhard workと共に自己実現をする強い精神力が必要です。
 再現性も一番重要な点です。大きいと思われる成果がえられた場合に、繰り返して実験をして、異なる方法でも再現性を確認し、さらに異なる共同研究者に再現性を確認してもらうことが必要です。
 予期しないあるいは仮説と反対の実験成績が出たときは、その意義をよく考えることが大切です。しばしば大きい發見につながることがあります。「失敗は成功のもと」は研究でも言えることです。失敗と思われる実験結果で落胆することが多いのですが、実験方法に誤りがなく、再現性のある結果であれば、なぜ仮説と異なる結果がでるのか、楽天的によく考えることが、しばしば大きい成果につながります。研究の過程で “serendipity” (“The Three Princes of Serendip” の王子達が宝を偶然に発見するおとぎ話からの造語)と呼ばれる思いがけない発見にあたることがあります。”serendipity”を見逃さないことが大切ですが、失敗と思われる結果に大きい發見がかくれていることがあります。
 重要と思われる成果が得られた場合には、迅速な英文「論文発表」が望まれますが、成果の「再現性」に十分に留意してください。論文が公表されると直ちに次の研究課題にと順次に大きく発展して行く研究を追及することが極めて重要です。
 投稿する「journalの選択」では、研究の初期には、掲載論文の引用回数の多いimpact factorの高い国際誌 ”big journal” に論文が採用されることはなかなか困難です。研究の評価は数も重要ですが、質がより重要ですので、できるだけ ”big journal”を目指すべきです。ただし、impact factorの低いjournalでも独創性と大きなimpactのある論文もあります。
 実験成果の保存は極めて重要で「神経科学の後人への提言」にも述べますが、computerでの「電子データ」保存と共に、保存のために紙の「実験ノート」も必要と思います。
 研究は苦労が大きい仕事ですが、好奇心をもって、楽しんで研究することが望まれます。研究の醍醐味は大きい研究成果をみたときの素晴らしい感動・感激です。大きい発見をした感激は一生忘れられません。


永津先生、貴重なお話をどうも有難うございました。
 

 
 
ナガツ トシハル
永津 俊治 先生
1955(昭和30)年3月名古屋大学医学部 卒
1960(昭和35)年名古屋大学大学院医学研究科(博士課程)修了
(医学博士)
1962(昭和37)年~1964(昭和39)年米国国立衛生研究所(NIH)Public Health Service
postdoctoral Fellow
1966(昭和41)年~1976(昭和51)年愛知学院大学歯学部 教授(生化学)
1967(昭和42)年~1968(昭和43)年米国南カリフォルニア大学医学部 客員教授 (併任)
1972(昭和47)年~1973(昭和48)年米国ロッシュ分子生物学研究所 客員研究員 (併任)
1976(昭和51)年~1985(昭和60)年東京工業大学 教授(大学院総合理工学研究科生命化学)
1984(昭和59)年~1991(平成3)年名古屋大学 教授(医学部生化学第一講座)
1989(平成1)年~1991(平成3)年名古屋大学 医学部長 (併任)
1991(平成3)年東京工業大学 名誉教授
1991(平成3)年名古屋大学 名誉教授
1991(平成3)年~2000(平成12)年藤田保健衛生大学 教授
(総合医科学研究所分子遺伝学研究部門・神経化学)
1995(平成7)年~2001(平成13)年藤田保健衛生大学 総合医科学研究所長 (併任)
1999(平成11)年米国 NIH Fogarty Scholar (併任)
2000(平成12)年藤田保健衛生大学 名誉教授
2001(平成13)年~現在藤田保健衛生大学(医学部薬理学講座) 客員教授
2005(平成17)年~現在名古屋大学(環境医学研究所脳機能分野) 客員教授
2010(平成22)年藤田保健衛生大学総合医科学研究所名誉研究所長
2016(平成28)年藤田保健衛生大学特別栄誉教授
2016(平成28)年~現在藤田保健衛生大学 医学部アドバイザー
 
受 賞 中日文化賞(1976年)、ベルツ賞(一等賞)(1987年)、上原賞(1993年)、日本医師会医学 賞(1993年)、読売東海医学賞(1994年)、紫綬褒章(1995年)、Fogarty Scholar at the National Institutes of Health (NIH, USA) (1998年)、勲二等瑞宝章(2001年)、The Julius Axelrod Medal (USA)(2001年)、The WFN (World Federation of Neurology)Award (2005), Franz Burda Award, Germany (2011), Honors For Excellence in Catecholamine Research: The 10th International Catecholamine Symposium, The Catecholamine Society) (2012), Vent e.V. Awards (Association for Research on Neurodegeneration, Neuroprotection, Neuroregeneration, and Therapy e. V., Germany) (2013)


皆さまの神経科学研究における輝く成果の未来を大いに期待しています。神経科学は人類の将来の発展に極めて重要な学際的な科学です。研究の困難を切り拓きがんばってください。

 
神経科学の後人への提言

 上記の「これから研究を進めて行く人達へのメッセージ」と重複し、また若い研究者 のために「いかにして大きい研究を推進するか」と題したエッセイを「生化学」誌 アトモスフィア(第 79 巻 第 11 号 P.1017, 2007)に私が記載した内容とあまり違いま せんが、神経科学の研究を託す後人への提言を記載します。
神経科学は物理学、化学、工学、生物学、医学、栄養学、農学、情報科学、心理 学、倫理学、経済学、法学、社会学、哲学、文化、芸術、体育などの自然科学・人文科 学・社会科学のすべての分野に関連する科学研究領域です。神経科学は人類の将来の発 展と生存に極めて重要であり、人類の争い、経済(貧困など)、地球環境、エネルギ ー、水、食糧、等の問題解決に必須の研究分野です。いろいろな専門領域の研究者が神 経科学の研究に貢献する必要があります。
 研究はできるだけ若い時に開始することが望まれます。独創性(originality)は若い時 期、20-30 歳代に最も高く年齢と共に低下します。
 研究に重要なことは何を研究するかの「 研究課題の選択」です。独創性(originality) と科学的社会的に重要性(impact)が高いと推定され、未知の疑問とされる回答のわからない研究課題を選ぶべきです。最初から結果が予測される研究課題は大きい成果となり
ません。大きい研究でも取るに足らない研究でも同じ時間がかかります。
「研究課題の選択」に当たり、ある仮説(hypothesis)が必要です。研究結果が仮説と 異なる場合には、実験方法に誤りがなく、再現性があれば(reproducible)仮説に問題が あることになり、かえってしばしば大きい発見にいたることがあります。
 “Serendipity”とよばれる予期しない好運による大きい発見がありますが、思いがけなく予期しない宝を見っける ”Serendipity”を見逃さないことが大切です。
 「研究課題の選択」と共に極めて重要なことは、「研究方法(method)の選択」です。 その研究課題を解決する最新・最先端の方法を選ぶべきです。もしも適当な方法がない 場合には解決できる新しい方法を開発する必要があります。1980 年代より神経科学に導入された分子細胞生物学は、神経科学に革新的な進歩をもたらしました。神経科学で は大きい研究課題の解決では、in vitro レベルでは、分子細胞レベルの生化学・分子細胞生物学、生理学、病理学、薬理学、免疫組織化学・最新の顕微鏡法・電子顕微鏡法な どの形態学、また in vivo レベルでは、patch clamp techniqueなどの電気生理学、 種々の行動薬理学、magnetic resonance imaging (MRI)・positron emission tomography (PET)・ single photon emission computed tomography (SPECT) などの 分子イメージング法、などの総合的方法を必要とします。おそらく今後は研究方法の全 体について、また in silico レベルで、情報科学、人工知能(artificial intelligence, AI)が 大きく関与することが予測されます。
 この場合には、一研究グループでは無理で、複数の研究グループの共同研究が必要となります。
 実験結果の保存は極めて重要です。以前には、ページを印刷した Lab ノート(Laboratory Notebook) に、片ページにあらかじめ計画した詳細な実験計画を記入し、 反対ページに対応する実験結果をその場で記入し、もしも記入に誤りがあれば横線で誤りを示し、その後に正しい記載をして、担当研究者のノートと所属研究室のノートとを 重複して保存するのが習慣でした。2000 年ごろより、computer の導入により、電子ノート(Electronic Notebook)になり、実験 data は computer に保存されるようになりました。電子ノートは、実験した研究者、研究室の指導者のみならず、国内国外の共同研究者と online で瞬時に情報交換ができる利点がありますが、data の改変・保存の心配 があります。電子ノートと共に、これまでの紙の Lab ノートも data 保存のために必要 と思います。
 神経科学の研究でも、傑出した優秀な研究指導者の下に優秀な若い人材を集めて重点 的に研究費を配分する方式は研究成果の促進と共に人材育成にも極めて重要です。しかし、日本全国のことに地方の大学の小さい研究室の能力と熱意がある研究者にも最低の 研究費支援をすることが強く望まれます。研究費は大きい研究への重点配分と共に、小規模の独創的な研究にも広く薄く配分すれば思いがけない発見がでることもあり、また 地方の活性化にもつながります。そのためには日本の国全体としての公的外部研究費の 増加が強く希望されます。広くて堅い研究基盤の上に突出した独創性・インパクトの高 い研究が生まれます。
 現在、比較的短時間で研究成果を求められる社会傾向がありますが、研究は研究者の興味と科学の真実をもとめる情熱とから進めるべきもので、その時点では役に立たないと思われる研究でも、ゆとりをもって数十年単位でみる必要があると思います。20 世紀の時代は, 21 世紀の現在よりも研究にゆとりがあつたように感じます。日本の社会の 問題ですが、研究者が尊敬され経済的にも保障されて、より多くの後進が研究にすすんでくださることを心より願います。
 科学研究は常に進歩しており教育の進歩にも必須で、「教育・研究」は一体です。 日本と世界の人類の発展・生存には、すべての科学、神経科学の「教育・研究」が極めて重要です。

 神経科学の後進の努力と発展を心より祈ります。