大脳基底核神経回路の制御機構

財団法人大阪バイオサイエンス研究所 システムズ生物学部門
科学技術振興機構さきがけ
疋田 貴俊

 平成23年度日本神経科学学会奨励賞をいただき、大変光栄に感じております。私は精神科医として研修を行った後に、京都大学大学院医学研究科生体情報科学 講座に進み、今回の受賞対象である大脳基底核神経回路の制御機構の研究を始めました。大脳基底核は運動のみならず、欲動、認知、精神活動などの高次機能を 担い、パーキンソン病、薬物依存症、統合失調症などの精神神経疾患病態に深く関与しています。大脳基底核は黒質緻密部からのドーパミン、大脳皮質からのグ ルタミン酸、線条体介在性神経細胞からのGABA,アセチルコリンなどの複数の神経伝達物質によって制御されていますが、運動制御や認知機能などの大脳基 底核機能における制御機構を未解明な点が残されています。私は大学院在籍時に、イムノトキシン標的細胞破壊法を用いて線条体の介在性神経細胞であるアセチ ルコリン産生細胞を選択的に除去することによって、アセチルコリンによる大脳基底核局所神経回路の解析を行い、ドーパミンとアセチルコリンが協調的かつ拮 抗的に作用し大脳基底核の神経回路を制御していることを示しました。さらに、側坐核アセチルコリン産生細胞除去マウスではコカインとモルヒネに対する感受 性が亢進し、反対にアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を投与すると側坐核アセチルコリン産生細胞依存的に薬物依存症が緩解 することを明らかにしてきました。一方、線条体や側坐核においてドーパミンやアセチルコリンの入力を受ける主要投射神経細胞である中型有棘細胞について は、黒質網様部に投射する直接路と淡蒼球を介する間接路に大きく二分されていますが、線条体内に混在し、その形態に違いがないことから、直接路と間接路の 情報処理や制御機構について明らかにされていませんでした。そこで大阪バイオサイエンス研究所システムズ生物学部門にて、生体において直接路と間接路の神 経伝達をそれぞれ可逆的に遮断する可逆的神経伝達阻止法を開発し、直接路と間接路の中型有棘細胞それぞれに特異的に破傷風菌毒素を発現させることによって 目的の神経回路遮断を行いました。この直接路と間接路に特異的な可逆的神経伝達阻止法を用いることによって、薬物依存形成と報酬学習には直接路、忌避学習 には間接路と異なる経路を用いていることを明らかにしました。今回の受賞を励みに、今後も高次脳機能や統合失調症などの精神神経疾患病態における大脳基底 核神経回路機構の解明を目指していきたいと思います。

 最後に、研究生活をサポート頂いた諸先生方、同僚達、家族、また長年にわたり研究指導頂き、今回の受賞に際して推薦してくださった中西重忠所長に厚く感謝申し上げます。

筆者近影。大阪バイオサイエンス研究所研究室にて。

受賞研究内容を議論する総説(Neuroscience Research掲載)
Hikida, T., Morita, M., Macpherson, T., 2016. Neural mechanisms of the nucleus accumbens circuit in reward and aversive learning. Neurosci. Res. 108, 1-5.

【略歴】

1997年
京都大学医学部卒業

2002年
京都大学大学院医学研究科博士課程修了

2003年
ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経科学部門留学

2005年
大阪バイオサイエンス研究所システムズ生物学部門研究員

2009年
さきがけ研究員兼任