軸索における活動電位の伝導様式とグリア細胞の関与

生理学研究所 脳形態解析研究部門 学振特別研究員(PD)
佐々木拓哉

 この度は、日本神経科学学会奨励賞を賜り、学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。このような栄えある賞を賜りまして、身の引き締まる思いを感じ、自覚と決意を新たにしております。

神経科学の教科書には、以下のような記述があります。「活動電位は全か無かの法則に従って発生し、一定の強度で軸索を伝播する」。これは大変理解し易いデジタル的な性質であり、高校生物の授業でも習う知識です。しかし、神経細胞は完全な機械ではなく、活動電位の発生や伝播は、すべてイオンチャネルによって担われています。つまり、これらのチャネルの動態が変化すれば、活動電位の動的性質も変化する可能性があります。この仮説を検証し、結果として、軸索を伝導する活動電位は、電位依存性チャネルの活性化に依存して、アナログ的に増幅することを見出しました。このような局所的な活動電位の調節は、軸索が単なる情報を運ぶためのケーブルではなく、高次な演算処理を可能にする計算ユニットであることを示しています。教科書的な理解とは異なる、新たな軸索演算の可能性を提唱した研究です。

 もう1つ、グリア細胞に関する研究をご紹介します。近年のグリア研究における学術論文では、冒頭を以下のような記述で書き始めるのが、(暗黙の?)ルールになっています。「グリア細胞の役割はニューロンの保護と考えられてきた。しかし近年、グリア細胞がニューロンを積極的に制御する知見が見出され、その重要性が注目されている」。これまで私たちも、アストロサイトがニューロンの興奮性や軸索伝導を制御するといった知見(図)を報告してきました。しかし、グリア細胞はニューロンと比べて、その性質が状況に応じて変幻自在であることが明らかになりつつあり、私たち観察者は、ある特殊な条件下で生じる生理現象に捉われ過ぎていた可能性があります。現状では、未だにグリア細胞の活動実態すら統一された見解はなく、正しい実験手法も確立されていません。多くのグリア生理学においては、ニューロンの実験アプローチや概念をそのままグリア研究に適用していますが、これだけではグリア細胞の真の実態を把握するのは不十分かもしれない、ということに多くの研究者が気付き始めています。このような「too glio-centric」な研究展開に傾き過ぎた反省と自戒のもと、今後はより客観的かつ定量的な視点から,グリア細胞の役割を捉えていくことが重要であると考えています。

 以下、研究内容とは独立した話です。私は2008年に、「若手研究者相互の交流と協力によって学問的視野を広げる」という理念の下、学生有志たちと共に「脳科学若手の会」を創設しました。多方面の先生方にもご協力いただき、現在、本会は沖縄から北海道まで全国に支部をもち、メーリングリスト登録者数500名以上という大規模な組織に発展しました。主な活動は、懇親会や勉強会に加え、合宿の開催、神経科学大会でのサテライトシンポジウム運営、研究員募集の告知など多岐に渡っています。最大の特徴は、これらの運営や意思決定は、すべて学生が自発的に行っている点です。このような自立的な若手組織は、他の学問分野でも例が少なく、本会の学生たちが、いかに大きな志を持っているかが伺えます。将来の脳研究を夢見る若手研究者の集まりの場として、今後とも本会を温かく見守っていただけますよう、お願い申し上げます。

 最後に、今回紹介した研究は主に、博士課程の在籍時、松木則夫先生、池谷裕二先生の御指導のもとで行った研究です。迷惑な学生でしたが、常に寛大な心で接していただき、研究者としての多くの教えを賜りました。また、本紙では紹介できませんでしたが、学部学生として東北大学薬学部(福永浩司教授)、博士研究員として埼玉大学(中井淳一教授)、生理学研究所(重本隆一教授)にて研究を行わせていただきました。これまでに百名を超える人々と研究生活を共にし、それぞれの場で、尊敬できる先生、 先輩・同輩・後輩に巡り合うことができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。少しでも恩返しができるよう、今後の研究活動に努めて参る所存です。今後とも宜しくお願い申し上げます。

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アストロサイトによる軸索を介したシナプス伝達の遠隔調節。①アストロサイト活動(緑)により、②軸索を伝導する活動電位の幅が増大する。③その結果、④軸索終末における神経伝達物質の放出が増大する。

受賞研究内容を議論する総説(Neuroscience Research掲載)
Sasaki, T., 2013. The axon as a unique computational unit in neurons. Neurosci. Res. 75, 83-88.

[略歴]
2005年 東北大学薬学部卒業
2010年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程卒業
2011年 埼玉大学脳科学融合研究センター 学振研究員PD
2012年 生理学研究所脳形態解析研究部門 学振研究員PD