「脳とは何か」の答えを目指して

この度は、平成28年度日本神経科学学会奨励賞という栄誉ある賞を賜り大変光栄です。選考委員の先生方、学会関係者の方々に心より感謝申し上げます。

私は学部の頃にエルヴィン・シュレディンガーの生命とは何かを読み、生命科学の大きな問いに対して自分なりにも何らかの答えを見つけたいと思うようになりました。特に生命に多くの機能をもたらした脳の研究はとても魅力的で、おもしろそうでした。動物が物を見たり、動いたり、考えたりするために必要な脳の機能を明らかにするために、できあがった脳の機能を調べることに加えて、脳がどのようにして形成され機能するようになるのかを調べることが大事であると考えました。動物の発達期に、脳の神経細胞が軸索とよばれる突起を適切な場所まで伸ばし、その場所で枝分かれをし、他の神経細胞と結合(シナプス結合)します。それらの初期に形成されたシナプス結合の密度は成熟脳におけるよりもずっと高いことが知られています。その後シナプス結合の再編成がおき、必要なシナプス結合は強くなり、不必要なシナプス結合は除去され機能的な神経回路が出来上がると考えられています。これらの過程は成熟した機能的神経回路が形成されるために重要なプロセスです。
 私は学部と大学院時代に山本亘彦先生(現大阪大学教授)にご指導いただき、神経細胞の枝分かれが適切な場所で形成される仕組みを明らかにする研究に取り組みました。ちょうどその頃、脳の研究に緑色蛍光タンパク質が使われ始めており、この緑色蛍光タンパク質を狙った神経細胞に発現させ、突起が枝分かれする様子を細胞レベルで観察することに成功しました。さらにこの枝分かれの形成には神経細胞の特定の活動が重要であることを発見できました。大学院博士課程を修了後、狩野方伸先生(現東京大学教授)の研究室で枝分かれやシナプス結合の形成が行われた後の過程であるシナプス結合の再編成の研究に取り組みました。当時、シナプス結合が再編成される仕組みを研究するために、遺伝子改変動物が用いられていました。しかし、この方法はある特定の遺伝子の働きを調べることには適していますが、多数の遺伝子を網羅的に解析することには不向きでした。私はシナプス結合の再編成に関わる分子を効率良く発見するため、脳から取り出した組織内でシナプス結合の再編成がおこる培養標本を開発しました。さらにその1度に10個以上の遺伝子を同時に調べることできる新たな実験系を開発しました。これらの実験系は遺伝子改変動物の作成に比べ、遺伝子の機能を調べるまでの時間を劇的にスピードアップできたため、シナプス結合の再編成に関わる重要な分子群を発見することができました。これまでの研究で、生命とは何か、脳とは何か、という問題に自分なりの答えをだせておりませんが、今後様々な観点で脳の機能と発達を調べ何らかの答えをだしたいと考えております。
 最後になりますが、長年に渡り御指導をいただいております、大阪大学 山本亘彦 教授と東京大学 狩野方伸教授に深く感謝申し上げます。また共同研究者の先生方や多くの研究者仲間が研究生活を支えてくれており、この場をお借りしお礼申し上げます。

・略歴
 2001年 大阪大学基礎工学部 卒業
 2006年 大阪大学大学院基礎工学研究科 博士課程修了 (理学博士)
 2006年 大阪大学大学院医学系研究科 博士研究員
 2008年 東京大学大学院医学系研究科 博士研究員
 2010年 東京大学大学院医学系研究科 助教

・写真と写真の説明
 

 著者近影