【神経科学トピックス】
グルタミン酸受容体制御のしくみ

エール大学医学部ポスドク
住岡暁夫

 グルタミン酸は中枢神経で主要な興奮性の神経伝達物質です。AMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)は興奮性シナプスの速い情報伝達を担います。シナプス上のAMPA受容体の数は、シナプス情報伝達の強度に影響し、その調節はシナプス可塑性を担っていると考えられます。そこで、シナプスにおけるAMPA受容体数を決定する仕組みの解明が重要になります。しかし、 シナプス情報伝達あるいは可塑性の際に AMPA受容体がシナプスに局在する分子機構は明らかになっていません。

 AMPA受容体がシナプスに局在する機構として、TARPと複合体を形成しTARPのC末端を介してシナプス固有の足場蛋白・PSD-95と結合する、という仕組みが提唱されています (図A)。この機構を検証するために、私達はTARPのPSD-95への結合モチーフC末4アミノ酸配列を欠損させたγ-8Δ4変異体マウスを作製しました。この変異マウスでは、シナプスのAMPA受容体の減少が、生化学および電気生理学的に確認できました (図B, C, D)。

 次に、この変異マウスで長期増強を誘導し可塑性を検証したところ、 驚いた頃にΔ4変異でも野生型と変わらず長期増強が観察されました (図E)。この実験結果は、 AMPA受容体がシナプスに局在する分子機構がシナプス情報伝達と可塑性で異なることを示すという、予想に反したものであり、シナプスが想像以上に複雑であることが分かりました (図F)。

 さらに、Δ4変異はシナプス外のAMPA受容体に作用せず、シナプスのAMPA受容体の発現量のみを低下させることが分かりました(図B, C)。一方、γ-8の欠損マウスではAMPA受容体の蛋白発現量が減少してることから、TARPのC末端4アミノ酸がシナプス局在を決定し、それ以外の部分が AMPA受容体の発現を安定化させることがわかりました。Δ4変異マウスのシナプス特異的 AMPA受容体消失という形質は、他の AMPA受容体結合タンパク質の検証を可能にし、その結果、Cornichon-like 2 (CNIH2) がシナプスにおいて、AMPA受容体とγ-8と複合体を形成していることが明らかになりました (図G)。 (Nature Neurosci., 14, 1410-1412. 2011)


【研究者の声】
今回の取り組みで私達は、長年の課題であったAMPA受容体をシナプスへ輸送する仕組みに一つの答えを出すことに成功しました。その甲斐もあり、ネイチャー・ニューロサイエンス誌の審査を経てブリーフ・コミュニケーション形式で掲載されました。しかし、審査過程でレビューワーに要求された実験の多くは、残念ながら追加図にまわってしまいました。ご関心寄せて頂いた方は、ネイチャー・ニューロサイエンス誌のWEBサイトから閲覧して頂けますと大変嬉しいです。

【略歴】
2001年東京大学薬学部卒業、2006年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了後、2006年北海道大学薬学部助手を経て、2006年からイエール大学医学部ポストドクトラルフェローを務め現在に至ります。生化学、分子生物学を基礎に神経科学を専門とします。現在、シナプス情報伝達を調節するメカニズムについて研究を展開中です。