【神経科学トピックス】
目標に向けて行動選択を更新する神経基盤を解明

玉川大学 脳科学研究所
博士研究員 野々村 聡

私たちは、正解が不確実な時には、過去の経験から可能性の高い行動をまず試して、結果の良し悪しで次の選択を決めます。本研究では、行動選択の結果が望ましく次も同じ行動を選ぶ場合に大脳基底核の直接路が、一方、結果が悪く別の行動に切り替える場合に間接路が関与していることを初めて明らかにしました。

 目標に向かってある行動を選択し、結果が望ましいものであったらその行動は次も再び選択され、期待はずれだったら切り替えられる確率が高くなります。大脳基底核のシグナル伝達は、「直接路」と「間接路」と呼ばれる二つの神経経路によって行われます。従来、この二つの経路は、拮抗的な活動のバランスによって、適切な運動発現に関わると考えられていました。本研究では、目標指向行動における直接路と間接路の役割に着目することで、望ましい行動の再選択には直接路が関与し、一方、結果が望ましくない選択からの切り替えには間接路が関与していることを発見しました。
 目標に向けた行動選択の更新に関与する直接路と間接路の役割を調べるために、ラットを対象に前肢でレバーを「押す」または「引く」ことで報酬(音と水)を得る行動課題を用いました(図A)。レバーの押し引き一方の選択では8割、他方の選択では2割の報酬確率を設定すると、ラットは試行錯誤を通じて報酬確率が高い行動を選択するようになります。その後、これまでの行動と報酬確率の関係を突然変更すると、より多くの報酬を得るために、ラットは行動と報酬確率の関係の変更に対応して10-30回の試行錯誤で行動選択を切り替えるようになりました。
 遺伝子組み換え動物の背内側線条体を対象に、光遺伝学と逆行性活動電位記録を組み合わせて特定の神経細胞から選択的に記録を行う「Multi-Linc法」を導入し、67個の直接路細胞と47個の間接路細胞の神経活動を同定しました(図B)。行動課題を遂行中の直接路と間接路の神経活動を調べると、行動選択した結果報酬を得て、次試行で同じ行動を再選択するときに直接路細胞が、報酬を得られず次試行で行動を切り替えるときに間接路細胞が神経活動を上昇させていました(図C)。実際に、報酬音に続いて直接路細胞に光連続パルスを与えて人工的に神経活動を賦活化すると、次に再選択をする割合が増え、一方、無報酬音に続いて間接路細胞を光刺激すると、次に選択を切り替える割合が有意に増加し、神経活動と行動再選択・切り替えの因果性が確認されました。
 以上の結果は、大脳基底核の二つの経路の相補的な活動が、目標に向けた行動選択の更新に関与していることを示唆しています。この成果は、心理学の基礎理論「行動は報酬と懲罰によって形成される」の脳内メカニズム理解に一歩近づくと共に、パーキンソン病などの行動障害を特徴とする大脳基底核疾患の病態理解のための手がかりとなります。

Monitoring and Updating of Action Selection for Goal-Directed Behavior through the Striatal Direct and Indirect Pathways

Satoshi Nonomura, Kayo Nishizawa, Yutaka Sakai, Yasuo Kawaguchi, Shigeki Kato, Motokazu Uchigashima, Masahiko Watanabe, Ko Yamanaka, Kazuki Enomoto, Satomi Chiken, Hiromi Sano, Shogo Soma, Junichi Yoshida, Kazuyuki Samejima, Masaaki Ogawa, Kazuto Kobayashi, Atsushi Nambu, Yoshikazu Isomura, Minoru Kimura

2018, Neuron, Vol. 99, Issue. 6, Pages. 1302-1314.e5

<図の説明>
(A) 課題遂行中のラットにおいて、神経活動の記録と、光刺激を行うための装置。ラットは、頭部固定下で、手元のレバーを押し引きすることによって、口元のチューブから報酬を得た。押し、引きの報酬確率は、30-80試行をブロックとして入れ替えた。
(B) 直接路と間接路の神経活動同定方法。直接路細胞は、直接路特異的に光活性化タンパク質であるチャネルロドプシン(ChRWR)を発現させた遺伝子改変動物(Tac1-Creラット)を使用し、背内側線条体に記録電極と光ファイバーを刺入し、記録している細胞が光パルスで活性化されることを基準に同定した。間接路細胞の同定には、遺伝子改変動物(Drd2-Creラット)を使用し、淡蒼球外節に刺入した光ファイバーを介した刺激に対して、記録している細胞が逆行性に活性化されることを基準に同定した(Multi-Linc法)。
(C) 直接路と間接路の神経活動。直接路細胞は、行動選択の後報酬を知らせる音によって神経活動を増大させた。その活動は、ラットが次に同じ行動を選択する場合に大きい。間接路細胞は、選択した行動で報酬が無報酬であることを知らせる音によって神経活動を増大させた。その活動は、次に行動選択を切り替える場合に大きい。図中の灰色は、解析に用いた期間。

<研究者の声>
 修士・博士課程在学中に計算神経科学や電気生理の基礎を学び、2015年より木村教授・礒村教授の研究室にて、今回の研究を始めました。今回の研究では、木村先生をはじめとする多くの先生方と議論を重ね、知恵を絞り、根気強く、様々な実験や解析を行いました。毎日必死でしたが、正確なデータを得て、正確にデータを解釈するための術と、研究と向き合う姿勢を学びました。今後はこの経験を活かし、今回明らかになった直接路・間接路の神経活動と、ドーパミンや大脳皮質、視床との関係性に迫ることで、意志決定や行動選択における大脳基底核機能の全貌解明を目指した研究に挑戦していきたいと考えています。

<略歴>
2009年 昭和大学 保健医療学部 卒業(理学療法士免許 取得)
2011年 玉川大学大学院 工学研究科 修士課程 修了
2014年 玉川大学大学院 脳情報研究科 博士後期課程 単位取得済み退学 
(2017年 博士学位(工学)取得)
2015年より現在 玉川大学脳科学研究所研究員(木村實教授・礒村宜和教授)