演題詳細
Educational Lectures
基礎脳科学者のための精神疾患臨床ABC教育コース
開催日 | 2014/9/11 |
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時間 | 9:00 - 11:00 |
会場 | Room D(503) |
Chairperson(s) | 喜田 聡 / Satoshi Kida (東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科 / Department of Bioscience, Tokyo University of Agriculture, Japan) |
岐路に立つ精神医学~臨床・基礎の橋渡しに向けて
- EL1-4
- 加藤 忠史 / Tadafumi Kato:1
- 1:理化学研究所 脳科学総合研究センター / RIKEN Brain Science Institute
精神疾患は大きな社会的損失をもたらしている疾患であるが、その診断法は今も面接に頼っており、積極的に診断できる検査法は未だ存在しない。多くの治療薬が用いられているものの、いずれも副作用があり、効果も充分とは言えない。
これまでの精神疾患研究は、20世紀半ばに偶然に近い形で見いだされた向精神薬の作用機序の研究が中心となってきた。しかし、類似の作用を持つ向精神薬の開発はもはや限界に達しており、全く新しい作用機序を持つ画期的な薬の開発は、未だ成功していない。
このような状況の中、精神疾患を克服するための出発点は、ゲノム研究により精神疾患のまれな原因遺伝子変異を見つけ、さらに環境因を付加するなどして、妥当性の高い動物モデルを作ることである。次に、そのモデル動物が精神疾患と類似の症状を示し、同じ薬が効くかどうかを確認し、このモデル動物で、脳の病変を明らかにする。そして、その脳病変を患者死後脳で確認し、脳病理所見に基づいて病気を定義し直し、疾患概念を確立する。この特徴的な脳病変を診断できる方法を動物実験と臨床研究により開発すると共に、そのモデル動物を用いて、根本的治療法、予防法を開発する。こうした手順でしっかりと進めれば、精神疾患を解明できるはずである。
しかしながら、現在、精神疾患の原因解明は決して順調に進んでいるとはいえない。そのボトルネックとなっているのが、臨床研究と基礎研究の相互的連携が、未だ十分とは言えないことである。
臨床研究では、脳画像研究、ゲノム研究が盛んに行われているが、細胞レベルから神経回路レベルでの事象を明らかにすることは困難である。一方、動物実験では、詳細な神経回路の解析を行うことができ、神経回路病態と行動変化の因果関係を解明することも可能であるが、そもそも動物に精神疾患があるのかという根本的な問題が存在することから、最終的にはヒトでの確認が必要となる。たとえ動物に精神疾患そのものが存在しなくても、精神疾患の原因となっている細胞~神経回路レベルの病態、すなわちマイクロエンドフェノタイプを動物で再現することは可能と考えられ、今後の精神疾患研究においては、動物とヒトで共通な、細胞~神経回路レベルの病態の解明を目指すことが重要である。