【The Neuro-osteoimmunology Seminar】
『嗅覚系を用いて神経系における多様性識別の謎に迫る:
嗅覚研究から何がわかり何が見えてきたのか?』
■日時
11/28(金) 17時~18時
■会場
東京大学医学部教育研究棟14階 鉄門記念講堂
■演者
坂野仁先生(東京大学 名誉教授、特任研究員; 福井大学 学術研究院 医学系部門 高次脳機能客員教授)
【講演要旨】
高等動物における嗅覚は、個体や種の生存・維持に深く関わる重要な感覚受容システムである。匂い情報は複数種類の匂い分子の異なる組み合わせと量比から形成される為、その種類は無限と言われ、それを限られた種類の嗅覚受容体で識別しているからくりは、長い間謎であった。嗅覚受容体遺伝子の同定により、その謎を解く鍵は匂い情報の画像展開にある事が明らかとなった。個々の嗅細胞は約一千種類ある受容体のうち一種類のみを発現し、同じ種類の受容体を発現する嗅細胞の軸索は嗅球表面の特定の位置に糸球体構造を作って投射する。一般に匂い分子は複数種類の嗅覚受容体と異なる親和性で結合出来るため、匂いの結合情報は多数の活性化された糸球体の組み合わせパターンとして嗅球表面で画像展開される事になる。
この画像識別によって、多様な匂いが限られた種類の受容体分子で同定されている訳であるが、当グループでは嗅覚神経地図形成の基本原理を解明し、入力した匂い情報がどの様に情動・行動の出力判断に結びつくのか大筋を神経回路レベルで明らかにした。 演者は以前、スイスバーゼルの免疫学研究所において、抗体遺伝子の多様化メカニズムの解明に取り組み、遺伝子断片の組み合わせによる (combinatorial) 多様化と組み換え部位の塩基の付加・欠失による(junctional) 多様化によって108を超える種類の抗体遺伝子が生み出される事を見出した。またこの遺伝子組み換えに必要なシグナル配列を発見し、いわゆる12/13スペーサールールで知られる組み換えのメカニズムを明らかにした。 その後当グループは神経系に目を転じ、多様性識別の問題が神経系にも有るのでは、という観点からマウス嗅覚系に着目した。免疫系ではリンパ細胞という浮遊性の細胞がサイトカインなど可溶性の伝達物質を介してネットワークを構築しているが、神経系では神経細胞が軸索や樹状突起を伸長してシナプスを形成し、電気信号によるコミュニケーションを行なっている。この様に一見全く異なる免疫系と神経系ではあるが、高等動物の高次機能を支える為のストラテジーに様々な共通点が見出される。
先ず匂い分子の識別を担当する嗅覚受容体であるが、リンパ細胞の抗原受容体と同様、個々の嗅神経細胞が発現する受容体の遺伝子はたった一種類であり、しかも父方と母方の二つの対立形質の間に発現の相互排除 (allelic exclusion) が認められる。更に、免疫系に自然免疫と獲得免疫がある様に、神経系では先天的な本能回路 (innate circuit) と記憶に基づくadaptiveな学習回路が並行して機能している。また、システムの発達期に経験した匂い情報は、例えそれが先天的には忌避すべきものであっても、臨界期の刷り込み記憶によって好ましいものとして許容するという、免疫寛容 (self-tolerance) に似た現象が存在する。当グループではこの様な免疫系と神経系の共通点に着目し、多様な匂い情報の識別の問題に取り組んできた。本講演では長年免疫学研究に携わってきた演者が、免疫系という高次システムの持つ「知恵」をヒントに、どの様に神経系と言うもう一つの複雑系にチャレンジしてきたかを紹介する。
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