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2021年度 日本神経科学学会奨励賞受賞者 髙野 哲也 先生

脳の成り立ちを分子ネットワークから理解するく

慶應義塾大学医学部生理学(神経生理)教室
髙野 哲也

この度はこのような大変名誉のある賞を頂き、大変光栄に存じます。これまで多大なるご指導を賜りました多くの先生方、共同研究者の先生方にはこの場をお借りして心より御礼申し上げます。また、選考委員の先生方ならびに関係者の先生方に深く感謝致します。

私が神経科学を志すきっかけになったのは、ヒトの思考や感情の仕組みが知りたい、というそんな漠然とした好奇心からでした。私は、この興味を分子学的な視点から調べてみたいと未熟ながらにも思い、神経細胞特異的サイクリン依存性タンパク質キナーゼ5 (Cdk5)を研究されている久永眞市先生(東京都立大学)の研究室の門を叩きました。久永研究室では、Cdk5の新規基質Lemur tail kinase/LMTK1 (別名AATYK1)の機能解析を行いました。大学院生でした私は、脳内において膨大な情報処理を行なっている神経細胞の形態が分子同士の繋がりである細胞内シグナル伝達経路によって成り立っていることに深く感動し、神経科学の魅力に次第にのめり込んでいきました。そして、Cdk5-LMTK1-低分子量Gタンパク質Rab11という細胞内シグナル伝達経路が細胞内小胞輸送を介して神経細胞の軸索と樹状突起の形成を制御していることを見つけました。その後、神経細胞の軸索と樹状突起の形態形成を運命付ける細胞内シグナル伝達経路の全体像を理解したいと思い、リン酸化シグナル解析の研究分野において第一人者である貝淵弘三先生(現・藤田医科大学)の下で研究を始めました。貝淵先生の研究室では、長年にわたり謎に包まれていた1 本のみの軸索を形成・維持する長距離の細胞内シグナル伝達経路の探索を行いました。この仕事は、形成過程の軸索から残りの未成熟な突起へと伝わる細胞内シグナル伝達経路を時空間的に解析する必要があり、非常に困難が伴いました。幸運にも、貝淵研究室の先生方にはリン酸化プロテオミクスやイメージング解析、UNC (米国)のKlaus M. Hahn教授らと共に光分子操作技術LOV-TRAPの開発、本田直樹教授(現・広島大学)に数理モデルの構築と、多大なご助力を賜りながら、非常に多角的なアプローチによりこの難解な研究課題に従事させて頂きました。そして、形成中の軸索から細胞体へと非常に速いCa2+伝搬が誘導されていること、それにより他の未成熟な突起でCaMKI/GEF-H1/RhoA/Rho-kinase経路が活性化することで、2本目の軸索形成を阻止し、樹状突起への運命決定を遠隔的に制御されていることを発見しました。その後、細胞内シグナル伝達経路に留まらず、脳内でこれらの神経細胞内分子を駆動する細胞外シグナル分子にも興味を持つようになり、2017年よりDuke大学(米国)のScott Soderling先生の研究室に参加しました。Soderling研究室では、Cagla Eroglu先生と共にアストロサイトと神経細胞との接着構造である三者間シナプスの構成分子を網羅的に探索する新たな近依存性ビオチン標識(Split-TurboID)法の開発に取り組みました。このSplit-TurboID法の開発は本当に試行錯誤の連続でしたが、同研究室の上江洲先生や大学院生、またEroglu研究室のポスドクや非常に多くの仲間と先輩方に支えて頂き、三者間シナプス構成分子の網羅的同定と新たな三者間シナプスの役割を明らかにすることが出来ました。 このように、非常に些細な好奇心から始まった私の研究が今回の受賞研究成果に至るまで飛躍することができたのは、より良い研究成果へと導いてくださった多くの指導者の先生方と非常に多くの良き同僚に恵まれたお陰です。この場を借りて、皆様に深く御礼を申し上げます。私は、昨年7月より慶應義塾大学の柚﨑通介先生の研究室に参加させて頂きました。今後も、神経科学の研究分野の発展に少しでも貢献できるように、一層努力を致す覚悟でございますので、変わらぬご指導とご鞭撻をよろしくお願い致します。

略歴
2013年 東京都立大学大学院理工学研究科・神経分子機能研究室、博士課程修了
2013年 名古屋大学大学院医学系研究科・神経情報薬理学講座、研究員
2015年 名古屋大学大学院医学系研究科・神経情報薬理学講座、日本学術振興会特別研究員PD
2017年 米国Duke University Medical School (Scott Soderling研究室)、研究員
2020年 慶應義塾大学医学部生理、特任助教

髙野 哲也(慶應義塾大学医学部生理学(神経生理)教室)
2015年に貝淵先生、久永先生と参加したチリ・パタゴニアの会議にて。
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