2025年度 日本神経科学学会奨励賞受賞者 松本 直之 先生
生体内パターン発火による軸索リモデリングはヘブの学習則に従う
国立遺伝学研究所 神経回路構築研究室
松本 直之
この度はこのような名誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。審査に当たられた選考委員の諸先生方、ならびに、神経科学学会の関係者の皆様に衷心より拝謝申し上げます。また、これまで多大なご支援を賜った諸先生方、並びに共同研究者の皆様に、この場を借りて深謝いたします。
私は学部生時代、生物学とは全く無縁の分野を専攻しておりましたが、暇つぶしに図書館から借りた「Neuroscience: Exploring the Brain」を読んで神経科学に興味をもち、修士課程から大阪大学・山本亘彦教授(現・深圳湾実験室)のご指導のもと、神経回路構築の研究に従事しました。今回、受賞対象となった研究成果は海外留学先で行った研究ではありますが、その着想は山本研究室での研究が根底にあります。当時の指導教官であった山本先生には、私のような未熟な学生に対しても、根気強く熱心にご指導いただき、このような名誉ある賞を受賞するに至るまで成長させていただいたこと、深く感謝しております。
博士号取得後は金沢大学の助教に着任し、河崎洋志教授のご指導のもと、脳のシワができるメカニズムを研究しておりました。今回の受賞研究テーマとは直接関係しない研究内容ではございますが、プロジェクトの立案方法や研究に対する姿勢など、多くを学ぶ機会に恵まれ、一端の研究者として名乗れるまで成長することができました。後の海外留学が成功したのは、ひとえに河崎先生の熱意あるご指導ご鞭撻の賜物であったと深く感じております。
その後、Michael C. Crair教授(Yale大学)の研究室に所属し、Liang Liang研究室の協力のもと、今回の受賞対象となった「自発的な神経活動による神経回路の自己組織化メカニズム」の解明に従事しました。神経細胞の電気信号(神経活動)は、細胞間の情報伝達を担うだけでなく、神経回路ネットワークの配線を再編成する役割をもつことが知られています。しかし、刻一刻と変動する神経活動と神経回路再編の関係性を明らかにするためには、従来的な固定組織切片の解析では不十分です。そこで、覚醒状態のマウス脳内における神経活動と神経回路再編を同時に観察する新規イメージング手法を確立しました。この先駆的な生体内イメージング技術を駆使することで、自発的な神経活動パターンが神経細胞ひとつ一つの形態を分枝レベルで制御するインストラクターとしての役割を担うことを明らかにしました。
留学当初はコロナの真っ只中であり、周囲の助言を受ける事が困難な状況が続きましたが、これまでの研究経験を活かし、なんとか自力で研究を進めることが出来ました。また幸運にも恵まれ、期待していた結果が次々と得られ、早い段階で結果成果をまとめることができました。しかし、これらの研究成果が実を結んだのは、提案した研究計画を快諾し、自由に研究することを許してくださったCrair先生をはじめ、論文執筆に根気よく付き合っていただいたLiang先生、また、Crair研究室とLiang研究室の皆様方のお力添えがなければ成しえませんでした。この場を借りて、皆様に深謝申し上げます。
現在、国立遺伝学研究所・神経回路構築研究室(岩里琢治先生)の特任助教に採用いただき、神経回路形成機構の研究を継続しております。今回の受賞を励みに、日本の神経科学分野の益々の発展に貢献できるよう尽力して参りますので、引き続き、日本神経科学学会の諸先生方のご指導ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
受賞研究内容に関する総説(Neuroscience Research掲載)
(後日掲載予定)
略歴
2015年 |
大阪大学大学院 生命機能研究科 博士課程修了 |
2015年 |
金沢大学 医学類 助教 |
2020年 |
Yale School of Medicine, Associate Research Scientist |
2025年 |
国立遺伝学研究所 特任助教 |