2026年度 日本神経科学学会奨励賞受賞者 小坂田 拓哉 先生
社会性行動の柔軟な制御を司る神経回路基盤の同定
東京科学大学生命理工学院
小坂田 拓哉
この度は、2026年度日本神経科学学会奨励賞という素晴らしい賞を賜り、大変光栄に存じます。審査等に携わってくださった先生方、学会関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
私が東京大学農学部の東原和成先生の研究室において研究を開始したのは、さかのぼって2010年の春になります。当時は自らがアデノ随伴ウイルスベクターを多用して研究課題を遂行するようになるイメージもなく、ひたすらに初期応答遺伝子cFosの抗体を用いた組織化学染色を行っていました。ほどなくして、理化学研究所の吉原良浩先生のチームと共同で、鋤鼻嗅覚系を介して情報伝達がなされるフェロモン受容体発現細胞にCreを共発現させるトランスジェニックマウスの作製を開始しました。また、そのマウスに投与するHSVはCaltechのDavid Anderson研究室から分与いただく機会に恵まれ、ややもすればその頃から私は神経科学という分野に魅せられていたのかもしれません。
その後、Liqun Luo研究室からERATO特任准教授として日本に戻られた宮道和成先生から神経科学について様々なことを学びました(何も知識がなく、散々ご迷惑をおかけしました。。)その内容は私がDayu Lin研究室から東京科学大学(黒田公美研究室)に移籍した際にも大いに役立ち、今研究室でスムーズなvirus injectionができているのもそのおかげです。また、博士課程在籍時に、来日されていたDayu Lin博士(NYU Langone Medical Center)をタクシーで上野駅まで送る際に、「コンペティションの多い分野でやっていくのはさぞかし大変そうに思えるが、どう運営しているのか」と無謀にも質問した当時の私には、彼女の研究室で6年間を過ごすことになる未来はこれっぽっちも予想できていませんでした。
私が神経ペプチドオキシトシンに関連した研究を始めるのは、2018年秋にDayu Lin博士の研究室に移籍してからになります。今となっては分野を牽引するような地位を確立されている彼女ですが、当時は分野のライジングスターであると様々なところで紹介されていました。そんな彼女や米国において出会った研究者の皆様から学んだことは無数に存在し、忘れずに活かしていかなければとも思っています。研究を進めていく上で大事なことはたくさんあり、また、各々が有する多様性が大いに許容されるコミュニティであるべきと思います。その中であえて一言で述べるならば、「情熱」というのはサイエンスを前進させるうえで大切なキーワードになるのかもしれません。
私がこれまでに行った研究内容や、メンターや周囲の皆様からいただいた多くの学びについては様々な機会に紹介させていただいており、今回は少し違った視点から簡単に振り返りをさせていただきました。この来歴が偶然なのか必然なのかは知る由もありませんが、今も研究生活を続けられているこの状況はとても有難いものだと感じています。私よりも遥かに優秀・有望な若手研究者の皆さんが神経科学の分野にはたくさんいらっしゃいます。ポジティブに、そして自らのもつ情熱とともに進んでください。きっと素晴らしい未来が待っていると思います。そのような皆さんと今後お話できる機会があればとても嬉しいです。野生で生活している私をどこかで見つけた際には遠慮なくお声掛けいただければ幸いです。
サイエンスという大きなフィールドのなかで私が成し得ることができることは幾ばくか、またどのような貢献ができるのか、日々頭を悩ませています。その一方で、研究チーム内外の皆様と力を合わせることで達成できることも少なからず存在するのではないか、そのような可能性に心が踊るのも事実です。これからも様々なインプットとアウトプットを繰り返しながら魅力的な研究を繰り広げていければと思います。神経科学やそれ以外の分野に携わる皆様からこれからも御指導いただき、神経科学を筆頭としたサイエンスの盛り上げに少しでも貢献することができれば幸いです。最後になりましたが、本原稿において名前を挙げさせていただいた先生方、またこれまでの私のサイエンスの軸を作ってくださっている沢山の皆様に御礼申し上げます。
受賞研究内容に関する総説(Neuroscience Research掲載)
(後日掲載予定)
略歴
| 2017年3月 |
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士課程修了(東原和成研究室) |
| 2017年4月-2018年8月 |
ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト 特任研究員 |
| 2018年9月-2024年9月 |
ニューヨーク大学医学部神経科学部門 博士研究員(Dayu Lin研究室) |
| 2024年10月- |
東京科学大学生命理工学院 特任准教授(黒田公美研究室) |