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2026年度 日本神経科学学会奨励賞受賞者 大内 彩子 先生

格子細胞による将来位置の予測的表現

理化学研究所 脳神経科学研究センター
大内 彩子
この度は、このような名誉ある賞を賜り、誠に光栄に存じます。歴代の受賞者には、私が深く尊敬する恩師や先生方が名を連ねておられ、その中に自分の名前を加えていただいたことに大変身の引き締まる思いです。審査委員の先生方ならびに日本神経科学学会の関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
私は大学院博士課程より東京大学の池谷裕二先生に師事し、in vitro海馬急性スライス標本からの多細胞パッチクランプ記録や、in vivo麻酔下のパッチクランプ記録の技術を習得しました。膨大な実験経験を積ませていただく中で、電気生理学、特にパッチクランプ記録には技術だけでなく忍耐力と執念が不可欠であることを学び、現在の研究姿勢の礎になっていると感じています。また、院生時代の研究を論文としてまとめ上げるまでには、予想以上に長い時間と多くの試行錯誤を要しました。どのような意義を持つ研究として示すべきなのかを模索する過程で、自分自身の未熟さを痛感すると同時に、周囲の先生方や共同研究者の支えの大きさを改めて実感しました。一つの研究を納得がいくまで磨き上げていくという経験は、私にとって大きな財産となりました。
今回受賞対象となった研究は、学位取得後に理化学研究所の藤澤茂義先生の研究室に異動してから行ったもので、当初から格子細胞を主題として始めたものではありませんでした。他の研究テーマに取り組んでいた最中、偶然にも格子細胞を記録できていることに気づき、当時思うような結果が得られていなかったこともあって、行動課題を一新したことが研究の出発点となりました。私たちは、シータ波の遅い位相で嗅内皮質第Ⅲ層から海馬CA1野に将来の情報が送られている可能性を示唆した先行研究(Fernández-Ruiz et al., 2017)に着想を得て、「嗅内皮質第Ⅲ層のどのような神経細胞が将来の情報を表現しているのか」を探ろうと考えました。そのため、格子細胞を鮮明に記録できる210 cm四方の2次元空間を基盤に、1次元の軌跡を切り出して解析可能な新たな行動課題を構築しました。その結果、シータ波の谷部分で特異的に活動する神経細胞を発見したと同時に、ラットの進行方向ごとに発火率マップを作成したところ格子細胞特有の格子状活動が観測され、「予測的格子細胞」の発見に至りました。現在位置に基づく発火率マップでは格子状活動が見られなかったにもかかわらず、進行方向別に解析した際に格子状活動が明瞭に現れたときの驚きと興奮は、今でも鮮明に覚えています。その後、予測的格子細胞が現在の位置ではなく、将来の位置を予測的に表現していること、さらに予測的格子細胞を含めた格子細胞群が現在から将来に至る異なる軌跡情報を符号化することを明らかにし、論文として発表しました(Ouchi and Fujisawa, Science, 2024)。格子細胞による空間表現が単なる位置認識にとどまらず、将来の位置を予測的に符号化するという知見は、脳がどのように未来を予測しながら行動を制御しているのかを理解する上でも重要な示唆を与えるものと考えています。論文発表前のSfNでは格子細胞研究の第一人者であるMoser夫妻に研究のアイデアを先に展開されてしまうのではないかととても緊張し、隠れるように他の研究者の方々と議論していたことも、今では良い思い出です。
最後になりますが、これまでご指導いただきました、池谷裕二先生、藤澤茂義先生、さらに各所でご指導いただきました先生方や池谷研究室ならびに理研の同僚の皆様に心より御礼申し上げます。また、私の研究生活に理解を示し、支えてくれた家族にも深く感謝しております。今回の受賞を励みに、今後も一層、神経科学研究に邁進してまいります。今後とも神経科学学会会員の皆様のご指導とご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
受賞研究内容に関する総説(Neuroscience Research掲載)
Ayako. O., 2026. Predictive grid cells: Future spatial representations in the hippocampal-entorhinal circuit. Neurosci. Res. 227, 105053
略歴
2016年 北里大学薬学部卒業
2020年 東京大学大学院薬学系研究科 薬学博士課程修了
2020年 理化学研究所 脳神経科学研究センター 日本学術振興会特別研究員PD
2024年~ 現在 理化学研究所 脳神経科学研究センター 基礎科学特別研究員
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