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2026年度 日本神経科学学会奨励賞受賞者 史 蕭逸 先生

最前列で眺める睡眠研究のこれまで、いま、そしてこれから

筑波大学医学医療系
筑波大学高等研究院国際統合睡眠医科学研究機構
史 蕭逸
このたびは、このような栄誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。これまでご指導くださった先生方、共同研究者の皆様、研究室のメンバー、そして日々研究を支えてくださっている多くの方々に、心より感謝申し上げます。
本稿のタイトルにもありますように、私はこれまで睡眠研究を最前列で眺める機会を得た、大変幸運な一人だと思っています。睡眠研究の詳細については review article に譲るとして、ここではそこには書ききれなかった、narrative な話を少しさせていただきます。
最前列というのは、本当に面白い場所です。何の邪魔もなく最新の知見を見ることができる一方で、そこで変な動きをすると、後ろの人の視界を遮ります。出したデータは必ず誰かが再試をしますし、熟慮されていない仮説を出そうものなら、しばらく擦られ続けます。Gordon Research Conference (GRC) のような国際会議では特にそうです。ライブの最前列でサイリウムの色を間違えるようなものです。
私が睡眠研究を始めたのは博士課程からです。当時、私は進学先として、数理と実験の両方から生命現象に迫れる研究室を探していましたが、国内にはそのような研究室はほとんどなく、海外に行こうかと考えていました。その矢先に、研究室の先輩の紹介で、東京大学に戻ってこられることになった上田泰己先生の研究室を見学する機会を得ました。「数理×実験で問題を解きたいです。上から与えられるテーマは欲しくありません」と申し上げたところ、「うちは自由だから」と言っていただきました。その言葉に胸を躍らせて神経科学のドアを開けたわけですが、当時の私は NMDA 受容体すらよく知らず、またその「自由」という言葉の定義も、私が想像していたものとは少し違っていました。初めて参加した日本神経科学学会では本当に何もわからず、とりあえずひたすらメモを取っていたことを覚えています。今振り返っても、大変勉強になった時間でした。当時の睡眠研究は、回路研究から分子研究へのパラダイムシフトの真っ只中でした。上田研究室ではスクリーニングを進めながら、睡眠の分子機序について、議論と妄想を重ねていました。2016年には、日本から睡眠恒常性におけるリン酸化の重要性が大きく打ち出され、その後、分子と睡眠をつなぐ論文が次々と発表されました。現在では、そこから更に理解が進み、睡眠研究はいま本当に面白い時代にあります。今年のGRCで発表した際、ある著名なPIから「今の睡眠研究は、30年前の概日リズム研究にそっくりだ」と言われました。いろいろな仮説が出てきており、どれもあと一歩が足りない。しかし、おそらくその中にはすでに正解があり、分野全体が納得するための決定的な証拠がまだ出ていないだけなのだ、と。最後に、「そういう意味では、君の仮説にも、僕の仮説にも、まだチャンスがあるね」と言われ、大変ワクワクしたことを覚えています。このように、私は幸運にも、この時代の変化を最前列で眺める機会に恵まれました。そして、眺めるだけでなく、その変化の一部に少しでも貢献できたことを、大変光栄に思っています。
このような道のりを歩めたのも、本当に友人、ラボメンバー、そして共同研究者に恵まれたからだと思います。睡眠の理解だけでなく、人として、研究者として、そしてPIとしても、多くを学ぶことができました。特に、異なる教育を受け、異なる文化や制度の中で育ち、ときには研究者の外側にある視点を持つ人たちが、同じ問いをまったく違う角度から議論する経験は、今の自分自身を形作る上で非常に重要な一部です。ライブにいると、つい全員が同じステージを見ているように錯覚します。しかし実際には、箱推しの人もいれば、まったく違う推しを見ている人もいます。睡眠研究も同じです。神経回路を推す人、分子を推す人、数理を推す人、そして分野の外側から「そもそも、なぜその問いを立てるのか」と見ている人もいます。日々の研究では、どうしても一つの正解をめぐって、全員が競争しているような感覚に陥りがちです。しかし、睡眠の本質に迫るには、個別の分子や回路を明らかにするだけでなく、それらがどのように組み合わさり、個体の状態を作り出し、さらに進化の中でどのように保存されてきたのかを理解する必要があります。そのためには、多様な視点を横断する研究がますます重要になると考えています。
今回の受賞を励みに、今後も睡眠研究のこれまでに学び、いまの技術と視点を最大限に活かしながら、これからの睡眠科学に貢献できるよう、引き続き精進してまいります。最後になりますが、本賞の選考に関わられた先生方、学会関係者の皆様、また、私を本賞に推薦してくださり、日頃より温かくサポートしてくださっている柳沢正史機構長に、心より御礼申し上げます。
受賞研究内容に関する総説(Neuroscience Research掲載)
Shoi. S., 2026. From sleep homeostasis to cellular constraints in neurons. Neurosci. Res. 228, 105065
略歴
2017年 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻 博士(医学)
2017年―2022年 東京大学医学部 助教
2020年―2022年 ERATO上田生体時間プロジェクト グループリーダー
2022年―2025年 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 助教 (PI)
2025年― 筑波大学医学医療系/高等研究院国際統合睡眠医科学研究機構 准教授 (PI)
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