[学会について] 会長からのメッセージ

新しい時代の神経科学に向けて

日本神経科学学会会長
柚﨑通介
(慶應義塾大学医学部)
 
 昨年の今頃に、果たしてどれほどの人がこのような時代となることを予想したでしょうか?研究室で仲間と議論しながら研究したり、楽しく食事したり、学生に講義したり、学会や研究会で夜遅くまで交流したり、といった当たり前のような日常が全く当たり前でないということに気付かされた一年であったと思います。昨年に本学会会長を拝命した折に、私は「We are in the same boat」と書きました。日本という地域で、同時代に神経科学研究を行っているという意味において、私達は日本神経科学学会という大きな船の乗組員です。今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、中国の一地域で発生したウイルスであるにもかかわらず、世界の在り方に大きな変容を迫りました。私たちが普段立っている土台が実は非常に脆いものであることとともに、私たちは地球の上で同じ船に乗っていることを強く実感させられました。
 COVID-19は、とりわけメンタルヘルスに甚大な影響を及ぼしています。日本神経科学学会も会員学会として属している日本脳科学関連学会連合(脳科連)では、既に2020年4月に緊急提言「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係るメンタルヘルス危機とその脳科学に基づく対策の必要性」を提出しました。日本神経科学学会では、引き続き関連する他学会と連携して、必要な対応を取っていきたいと思います。
 公的研究費を支えるのが税金である以上、ポストコロナ時代には公的研究費についての見直しが進むことが予想されます。臨床研究や出口に近い研究は重要でありしっかりと支える必要がります。その一方で、結果がすぐに出なくても基礎科学への長期的な投資が必須であり、新しい発見は基礎科学なしには生まれません。はやぶさ2による惑星探査研究が熱く支持されていることを見習い、神経科学の面白さや重要さを一般の方々や政治家に伝えていく活動を今こそ続けていく必要があります。学会レベルのみでなく、会員の皆様による地道なアウトリーチ活動をお願いしたいと思います。
 COVID-19がもたらした良い影響もあります。まず何より、人との対面の交流の重要性について多くの人が痛感したのではないでしょうか。COVID-19が収束した暁には、国内外の神経科学者や、一般の方々と対面で交流できる機会を、より積極的に推進していきたいと考えています。一方、2020年7月29日―8月1日に完全にオンライン開催で行われた第43回日本神経科学大会(北澤大会長)の後のアンケートでは、これまでライフイベントや、遠隔地のために学会や研究会に参加しづらかった人たちからオンライン開催の利点についての声も多く寄せられました。そこで、2021年7月28日-31日に開催される第44回日本神経科学大会(尾藤大会長)では、対面とオンラインのハイブリッド形式での開催が予定されています。本大会は第一回日中韓国際会議でもあり、是非、会員の皆さまで盛り上げていっていただきたいと思います。
 昨年のご挨拶にも書きましたように、皆さまが乗っている船である日本神経科学学会を、新しい時代に向けて少しずつオーバーホールしていきたいと考えています。同時に、個々の乗組員が自分の夢をかなえるために成長し、自己実現を最大化させることも必要です。お気づきのように、新しくなった学会ホームページの会員ページには、皆さまの声を随時お聞きするシステムができています。是非、皆さまのお力添えをいただきつつ、日本の神経科学の発展を通して、人類の福祉や文化に貢献できれば素敵と思います。
2021年 1月

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