アデノ随伴ウイルス (AAV) 基礎情報

井上謙一(京都大学霊長類研究所 統合脳システム分野)

小林憲太(生理学研究所 ウイルスベクター開発室)

 

アデノ随伴ウイルス (AAV) は、パルボウイルス科に分類される小型 (直径20 nm程度) のエンベロープを持たないウイルスであり、1965年にアデノウイルスに混入する新規ウイルス粒子として発見された。ゲノムは、約5 kbの一本鎖DNAであり、ゲノムの両端には、Inverted terminal repeat (ITR)と呼ばれる特殊な配列が存在する。この配列は、T型のヘアピン構造を形成しており、ウイルスの複製やパッケージングに重要な役割を果たしている。

AAVは、1) 病原性がない、2) 分裂・非分裂細胞のどちらにも効率良く感染する、3) 物理化学的に安定、といった性質を持つことから、現在、遺伝子導入ベクターとして、基礎研究から遺伝子治療に至るまで広範に利用されている。また、AAVベクターには、カプシドタンパクの種類によって様々な血清型が知られており、血清型によってある程度の宿主指向性を示すが (主な血清型に関して表1に示す)、より細胞種特異的に導入遺伝子の発現を誘導するためには、遺伝子プロモーターの工夫などが必須である(この際ベクター全長を5kb程度以内に抑えないと作製効率が低下するため、注意が必要である)。一方、複数種の既存のカプシドを元に作製されたハイブリッドカプシドを持つ人工的な血清型も開発されている(参照: https://www.cellbiolabs.com/aav-expression-and-packaging)。このような血清型の中で、例えばDJ型は、他の血清型に比べて様々な細胞や組織に対して著しく高い感染効率を示す。さらに最近、中枢神経系において高効率な逆行性遺伝子導入が可能なAAV2 retro (参考文献 1) や、静脈注射によって高効率にマウスの中枢神経系に遺伝子を導入出来るPHP.eB (参考文献 2) といった新規でかつ魅力的な血清型が開発されており、AAVベクターの有用性が益々高まって来ている。なお、AAVベクターの取り扱いの安全基準は、biosafety level 1 (BSL1) に属している。

 

参考文献

1.     Tervo DG et al (2016) Neuron 92:372-382.

2.     Chan KY et al (2017) Nat Neurosci 20:1172-1179.