脳が学習によって変化する様子

南洋理工大学(シンガポール) 助教授
牧野 浩史

この度は日本神経科学学会奨励賞という大変名誉のある賞を頂き光栄に思います。選考委員の方々、そしてこれまでご指導して下さった諸先生方にこの場をお借りして感謝申し上げます。
   私は現在シンガポールにある南洋理工大学でAssistant Professorとして研究室を運営しています。神経科学の最先端の技術を駆使することでマウス大脳皮質における数千・数万単位の神経細胞群の活動を動物行動下で観測する一方、脳が近代的な人工知能の学習アルゴリズムに比べどのような点で優れているのかといった問題に興味を持っています。
   私の研究人生は学部時代にソーク研究所(アメリカ)のFred Gage教授のもとで始まりました。当時成体脳における神経新生の現象にとても興味があり、サンディエゴに交換留学をしていた際Gage教授の研究室に参加することで、神経新生が経験によってどう制御されているのかを調べました。若いうちに一流の研究室の様子を肌で感じる最高の機会を得ることができ、とても貴重な時間を過ごせたと思います。
   大学卒業後はコールドスプリングハーバー研究所(アメリカ)の博士課程へ進学しました 。当時コールドスプリングハーバー研究所ではげっ歯類におけるシステム神経科学がとても盛んで、例えばZach Mainen教授の研究室ではげっ歯類の行動学の基礎が出来上がっていましたし、Karel Svoboda教授の研究室では2光子顕微鏡によるマウス生体内イメージングが行われていました。そんな中私はシナプス可塑性の大家であるRoberto Malinow教授の研究室で学位の取得を目指しました。当時は興奮性シナプスが長期増強する際にAMPA受容体がどのように移動していくのかという細胞生物学的な問題に取り組んでいました 。またAMPA受容体の性質を利用することで経験依存的にシナプス長期増強がどのような配列で起こるのかを検証しました。
   大学院を卒業後、生体内神経細胞群のカルシウムイメージングをしたいということで、カリフォルニア大学サンディエゴ校で新たに助教授になられたTakaki Komiyama教授の研究室へポストドクとして参加しました。そこでは知覚学習や運動学習において、ニューロンの活動がどのように変化するのか2光子顕微鏡や広視野顕微鏡などの光学顕微鏡を使うことで調べました。これらの一連の研究により、学習によって高次から低次への脳領域への影響が強まることを示しました。
   このように私は学習や経験によって脳が変化する様子を分子、シナプス、神経細胞、神経回路と幅広い角度から研究してきました。冒頭でも述べたように私の研究室では現在、脳と機械が学習する様子について興味を持っています。神経科学で得た知験をもとに既存の枠組みに囚われない自由な研究をしていけたらと思っております。
   最後に私に今までご指導して下さったFred Gage教授、Roberto Malinow教授、Takaki Komiyama教授、Gage研究室時代から今も同じ大学でお世話になっている田代歩教授、私に日本の神経科学の様子をご指導して下さった尾藤晴彦教授に感謝の意を表してこれからも邁進していきたいと思います。

受賞研究内容に関する総説(Neuroscience Research掲載)
Makino, H., 2018. Top-down control: A unified principle of cortical learning. Neuroscie. Res. In press

[略歴]
2005年         セントアンドリュース大学(英国)卒業
2010年         コールドスプリングハーバー研究所(米国)博士課程修了
2011年〜2016年   カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)博士研究員
2016年〜現在      南洋理工大学(シンガポール)助教授


シンガポールの神経科学者達とともに。筆者は右から4番目。